困難を乗り越え、データ分析の文化を組織全体に根付かせる パイオニアが取り組むデータ活用への軌跡
同社も直面した、データドリブンへ向かう途上の3つの落とし穴
他の部署のサポートを得ることなく、エンドユーザーが業務に必要なデータを加工、分析し、そこから示唆を得て、意思決定を行う。こういったセルフサービスで社員1人ひとりがデータ分析を行うカルチャーは、一朝一夕で醸成できるものではない。事業部の依頼でIT部門が環境を用意するような役割分担が定着している場合は尚更だ。12月8日に行われたオンラインイベント「data tech 2022」に登壇したパイオニアの保田昌彦氏は、「落とし穴を飛び越え データカルチャーを根付かせるパイオニアの軌跡」と題した講演で、ゼロからのデータ組織立ち上げとこれまでの取り組みについて解説。保田氏が語る、組織が陥りがちなデータ活用の失敗事例、そして組織に文化を根付かせるための施策とは。
「リフト&シフト」で取り組む全社のデータ活用
保田氏が現在籍を置くパイオニアは、1938年の創業の老舗電機メーカーとして知られている。同社は2010年代の紆余曲折を経て、現在は「NP」「データソリューション」「市販」「OEM」「サウンド」「光ストレージ関連」の6つの事業を展開しており、そしてここ数年は大きな体制変更を経験した。

その皮切りが2019年3月の東京証券取引所上場の廃止である。以降はPEファンドの出資を得て、事業構造改革を進めている最中だ。2020年には新しい経営者を招聘し、2021年には新生パイオニアとしての中期経営計画を策定した。2022年からはその計画に即して、メーカーからソリューションサービス企業への変革に取り組み始めている。
この変革を成功させるためにデータ組織が果たすべき役割は大きい。保田氏は、社員1人ひとりが自身とビジネスの成長のために自走し続けられるよう、3つの要点を指摘する。
- 能動的にデータを見て、
- データに基づく意思決定・PDCAを回し
- 新しい次の人材を育てること
とはいえ、保田氏自身が入社した2021年当時は、全社的なデータ活用に取り組もうにも、専門知識を持つ人材が不足しており、目指す姿からは大きな隔たりがある状況だった。
パイオニアのように体制の整備から始める場合、そのアプローチは大きく2つに分かれる。1つは「社内の人材を育成すること」、もう1つが「アウトソーシング」である。パイオニアの選択は前者で、プロパー社員のスキルアップに加えて、中途入社で組織に加わった社員と一丸となり、内側から体制を鍛えていくことに取り組み始めた。

そのために2021年8月に立ち上げたデータ組織が、SaaS Technology Centerである。この組織のミッションを保田氏は社内では「リフト&シフト」と説明していると話す。リフトにはパイオニア全体を持ち上げること、シフトにはビジネスモデルの転換の意味が込められており、全社視点で人、組織、プロセスの強化と、ソリューションビジネスへの変革への貢献を目指している。
このSaaS Technology Centerは、ビジネス系データ集団とテック系データ集団の2つで構成される。それぞれビジネス系データ集団は事業部に入り込み、ビジネス活動におけるデータ活用の推進とその底上げを行い、テック系データ集団はパイオニア全体のデータ活用の推進とその底上げに取り組む。この2つのデータ集団が連携しながらパイオニアは社内のデータ活用に取り組んでいる。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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