人材はコストではなく「資本」、発想の転換を
──今、なぜ「人的資本経営」が注目されているのか。お客様との対話から見える背景から聞かせていただけますか。
油布:人的資本経営を英語で言えば「Human Capital Management」で、目新しい考え方ではありません。しかし、昨今の地球視点のSDGs、そして投資家視点のESGのトレンドに乗じて脚光を浴びるようになっています。
これまでの日本企業は人材をコストと捉え、積極的に投資をしてきませんでした。政府統計からも日米のスタンスの違いは顕著で、厚生労働省の推計によると、GDPに占める日本企業の能力開発費の割合は2010~14年の平均で0.1%にとどまっています。米国の2.1%と比べても低い水準で、人材投資の遅れが目立ちます。人材を「コスト」と捉えていて、投資することで利益を生む「資本」と捉えていないのではないでしょうか。
経営者が投資家の考え方を理解していなければ、人的資本経営と聞いてもピンと来ない。今でこそ生産年齢人口の減少が大きな問題になっていますが、かつては大卒一括採用で正社員を容易に調達でき、短期の人員不足は非正規社員で調整すればよかった。安定的に社内人材を得られるのだから投資の発想は生まれません。さらに、人的資本経営では「自社の企業価値を高めるために必要となる人材に投資をすること」を基本とするので、裏を返せば、不必要な人材には投資しないことになります。和を尊ぶ日本企業にこの考え方を根付かせるには、組織カルチャーを含めた抜本的な改革が必要になるでしょう。
──人的資本経営に取り組む企業には、どんな取り組みが必要になるのでしょうか。
大池:私たちは将来の組織成長に軸足を置き、企業価値の向上を人的側面から支えられる人事機能を持つ企業を「パスファインダー」と定義しています。2022年12月に発表した「Future of HR 2022」ではパスファインダーの取り組み事例から、人事部門が戦略部門に進化するためのポイントを考察しました。