全業界で広がるジェネレーティブAIのインパクト
ChatGPTの登場をきっかけに、エンタープライズITの分野でも、ジェネレーティブAIによる大きな変化が始まっている。FacebookやInstagramのように、マーケティングツールとして企業が使うようになったものの普及と比べても圧倒的に早い。各種試験での回答内容が評価されており、教育分野での利用の是非が取り沙汰されているところだ。ビジネスでの活用についても活発な議論が始まっている。「私自身は、ジェネレーティブAIの能力はどこにでも使えると思っていますが、ホワイトカラーの職種に就いているのであれば、今の業務のやり方を変えることに使うべきです」と保科氏は語る。
業界平均で40%のビジネスに影響
ジェネレーティブAIの裏側で動いているのが大規模言語モデルで、GPT以外にも、PaLM、LLaMA、それらの派生系を含めると様々な選択肢が出てきた。Accenture Researchが「LLMによる潜在的なビジネスへの影響」について、アメリカ国内で調査を実施したところ、業界平均で40%の労働時間に大きな影響が及ぶとわかった。特に大きな影響を受ける業種は、「金融業」「保険業」「ソフトウェア&プラットフォーム」「証券」「エネルギー」「通信&メディア」「小売」である。
また、職種別に結果を見ると、「事務作業、アシスタント業務」「営業、販売」「事業運営/財務運営」への影響が大きいとわかった。営業のように、これまでは人間同士のコミュニケーションに重きが置かれ、既存のAIでは適用の限界が指摘されてきた職種でも、LLMはこれまで以上に多くの領域をカバーすることになる。また、事業運営のような経営者の仕事でも、LLMはこれまでよりも深みのあるインサイトを提供してくれる。
経営ダッシュボードにLLMを組み込む
例えば、経営ダッシュボード上で「○○社の財務課題は何ですか?」と尋ねた場合、画面に表示されているグラフの解釈だけにとどまらず、その解釈を人間が読み、ドリルダウンで新しいインサイトを獲得するプロセスを繰り返した場合と同等のインサイトを最初から得ることも可能になってきた。さらに、その結果から「その課題を解決するための選択肢は以下のようなものです」とソリューション案を複数示してもらい、最も良いものを選ぶこともできる。
今まであまりAI適用が進んでいなかった領域でも、得られる効果は大きいと、保科氏はみている。その他、具体的には職種ごとに次のようなユースケースを想定しており、アクセンチュア自身がLLMを使いながら変革を進めているところでもある(図1)。
「GPTはGenerative Pretrained Transformerの略ですが、汎用的に利用できるという点でGeneral Purpose Technologyでもあると言えます。得意なことは人間の模倣です」と、堺氏は用途の広さに加え、その得意領域を解説する。これまでのAIが「スピード」や「知識量」などを強みにしていたのに対し、ジェネレーティブAIは高度な模倣能力を武器に、「作画」や「小説の執筆」のように、独自の作品スタイルで知られる作品を模倣し、実際には存在しない作品を提示することもできるようになった。また、ビジネスでも契約書のようなビジネス文書、プログラミングコードなどをある程度までは任せられるようになった。
では、ジェネレーティブAIに任せられない人間にしかできない領域は何か。AIは意思を持たないことを前提に考えると、まず情熱や共感が重要な能力になってくる。例えば、組織や顧客の気持ちを動かしたい時、相手が抱える悩みへの共感を示し、情熱を持って周囲を巻き込むことが必要になる。このようなリーダーシップは人間にしか発揮できない。また、AIは人間のように五感を通した経験ができるわけではない。さらには、良い悪いを判断できる倫理観を持ち合わせているわけでもない。
そうなると、AIのアウトプットが社会的に受け入れられるかの判断なども人間の役割として残るだろう。この役割分担はあくまでも現時点でのものに過ぎず、今後の発展で境界線が変わることも考えておかなくてはならないが、保科氏は「できることとできないことで分けるのではなく、人間がやらなくてはならないのは磨き込むことです」と、基本的な考え方を説明した。
プラスアルファを示せないコンサルタントは不要に
重要な点は、ジェネレーティブAIが作業の効率化だけでなく、人間の可能性を広げるパートナーになりうる存在だということだ。保科氏がクライアントの経営者とディスカッションをしていると、何かと「アウトプット作成までの時間を短縮する」特性に魅力を感じる傾向が顕著だという。しかし、「選択肢(着想/想像力)の幅を広げる」「AIから学び、AIの教師になる」という2つの特性はもっと重要だ。
「例えば、我々のようなコンサルタントがAIの示す選択肢と同程度のものしか出せないようであれば、不要とみなされてしまいます。AIが示した経営課題に対し、プラスアルファで別の経営課題を示すことができるか。AIのアウトプットとの違いを明らかにしながら結果を提示することが求められるようになるでしょう」と保科氏は予測する。つまり、ChatGPTをそのまま使うだけでは、差別化には繋がらないということだ。