異なる組織間の「データ授受」を阻む「7つの壁」とは
吉村氏:事業会社を横断してデータを活用する際には、「いかに各事業会社との間でスムーズにデータの受け渡しができるか」が重要です。ここは揉めることがとても多い領域ですが、なにか良い方法はありますか?
横井氏:今まで仕事をしてきた経験からいえるのは、各事業会社の中から「データ活用に対するモチベーションが高い人が見つかる」と進めやすい——ということですね。その人のモチベーションの源泉が、単に「売り上げを達成する」ことだけではなく、その先の「顧客にどんな価値を提供するか」までを考えたところにあるかどうかも、とても重要なポイントだと思っています。
その人が顧客に対する新たな価値を見つけようとする中で、1つの組織や会社では実現できないところに、私たちのようなホールディングスの人間が入って並走しながら、データ施策を支援する。そこで信頼関係を築いて、データ授受の仕組み化に協力してもらう——というのが理想ですね。
そうやって先に信頼関係を築いたほうが、間違いなくデータの受け渡しがスムーズになるので、初手としては「事業をスケールさせるためのデータ活用に対して強い思いを持っている人」を見つけることが大事だと思っています。
吉村氏:私もそう思います。じつはDMBOK(Data Management Body Of Knowledge:データマネジメント知識体系ガイド)にも「データスチュワードは、既にいる人を一本釣りしてこい」って書いてあるんですよね。
横井氏:とてもよくわかります。役職の有無に関わらず、強い思いを持った方がキーパーソンですね。
吉村氏:モチベーションが高い人が見つかったら、いよいよ事業会社間のデータの授受ですね。
横井氏:ここを実際にやろうとすると、実にさまざまな壁が立ちはだかるんです。私は「7つの壁」と言っていますが……。
吉村氏:7つの壁、初めて聞きました。
横井氏:私が言っているだけなんですけどね(笑)。「企画の壁」「契約の壁」「ユーザー同意の壁」「セキュリティの壁」「システム開発の壁」「データガバナンスの壁」「データフォーマットの壁」の7つです。
吉村氏:実に興味深いですね。この後は、この「7つの壁」を掘り下げていきましょう。
企画の壁
横井氏:最初にして最も重要なのが「企画の壁」です。
これは、横断的なデータ活用をする際の「共通の目的」を考えよう、ということです。ホールディングスと事業会社双方にとって魅力がないと、以降の壁にぶつかったときにプロジェクトが止まってしまう場合があります。
吉村氏:よくわかります。「横断的なデータ活用」という手段が目的になってしまうと、本当に続かないですよね。
横断的なデータの活用によって、どのような形で顧客の満足度を高められるのか、その結果、どんな利益が見込めるのか——といったところが「共通の目的」として言語化されていないと、その先のさまざまな壁を突破できない。
横井氏:まさにおっしゃる通りです。「グループ横断でお互いのデータを使い合っていきましょう」という話になって、事業会社側で「ちょっと使ってみたい」と興味を持ってもらっても、目的を共有できていないと、その先に待ち受ける難題をクリアできないんですよね。その結果、「やっぱり、いいや」と事業者側が諦めてしまうことが少なくありません。
この問題を解決するために、事業会社側のデータ活用に向けたコンサルタントの役割を担う人をホールディングス側に置くのも効果的だと思います。コンサルタントが事業会社側にヒアリングを行い、データ活用の目的をクリアにするとともに、信頼関係を築いていく——という形です。
吉村氏:各事業会社がデータ活用のための企画を考えるところに、ホールディングス側が並走する——ということですね。
じつはバンダイナムコネクサスでも、同じような取り組みをしています。データ活用に向けたプロジェクトマネジャーの役割を担うデータストラテジストを置いていて、事業会社側のデータ活用に並走しているんです。目的の設定から分析、成果につながる施策の立て方まで、成果を出すための一連の取り組みを支援しています。
これはホールディングス側にとっても、「事業会社側のビジネスを学べる」というメリットがあります。こうして一緒に学びながらプロジェクトを進めていく中で、横断的なデータ授受の際のガバナンスやデータ基盤について、理解してもらうような形で進めていますね。
横井氏:企画の壁は、このような取り組みで乗り越えられそうですね。