セールスフォースが提供する「信頼できる生成AI」
日本でのイベント開催に先立ち、米セールスフォースは2023年6月に「AI Cloud」を発表している。AI Cloudは、あらゆるアプリケーションとワークフローを横断して、信頼でき、オープンで、リアルタイムな生成AI体験を提供するための能力を最適化して組み合わせたスイートである。図1で示すように、インフラの「Hyperforce」からCDPの「Data Cloud」「大規模言語モデル(LLM)」「Einstein GPT Trust Layer」「ビルダー」「アプリケーション」が積み上がるスタック構造となっている。
セールスフォースがAIに取り組み始めたのは2016年のことで、以来Salesforce Einsteinと呼ばれる予測AIを提供してきた。当時から重視してきたのが信頼できるAIの提供である。マシュー氏は、生成AIのような「全く新しいテクノロジーへの移行が起きる時ほど、信頼は不可欠だと思います」と語る。と言うのも、「ビジネスアプリケーションをクラウドで利用するなんてとんでもない」と考える企業に対し、自社のデータを他社と共有することなく、コントロールを失うこともないマルチテナント環境を提供し、顧客からの信頼を獲得してきた自負があるためだ。
セールスフォースは予測AIの機能をアプリケーションに組み込んできた。例えば、Sales Cloudの裏側で動いているSales Cloud Einsteinでは、過去のデータを基に商談化の確率の高い見込み客を順番に並べたり、受注する可能性が高い商談を順番に並べたりができる。Service Cloudや他のアプリケーション製品でも同様に、セールスフォースはバージョンアップの度に様々な予測AIの機能を実装してきた。予測AIの提供でこだわったのが信頼(トラスト)である。精度の高い予測結果を得るためにはモデルのトレーニングが必要になるが、「トレーニングではお客様のデータを使っていません。なぜならば、そのデータはお客様のもので、セールスフォースのものではないからです」とマシュー氏は訴える。
データが誰のものか、セールスフォースは予測AIでその線引きを明確にしてきた。ならば、生成AIでも同じ方針で顧客のデータを保護しつつ、各アプリケーションから生成AIの機能を使えるようにしなくてはならない。企業がデータプライバシーを犠牲にすることなく、生成AIのベネフィットを得られるようにするのがセールスフォースの考える「信頼できる生成AI」である。