これからは“戦略的なクラウド活用”の時代
──クラウド化が進む中で、世間ではオンプレ回帰の動きも見受けられます。そこで重要になるのがクラウド運用モデルの導入です。事前の計画構想や事後の戦略、運用も考えていく必要がある中、企業はどのようにクラウド活用を進めていけばいいでしょうか。
花尾:まずは全体観から触れると、周知の通り市場には便利で競争力のあるツールやサービスが多数存在してきています。そうした中で各社にとって最適なものを適材適所に使っていくという流れから、結果として生じる「環境の多様化」を必然として受けとめる必要があると考えています。その上で、それに適応した組織体制、運用モデルの見直しや確立が重要になってきます。
そして、クラウドを利用したいと考える企業においては、大きく2つの段階があると考えています。第1段階は、例えば「とある部署が、利用しているオンプレミス環境でハードウェアを保有したくない」といった限定的かつ現場課題を起点として環境構築がはじまるケースです。この場合、その課題解消だけがクラウド導入の目的となってしまうことが多いでしょう。
次の段階として、クラウドベンダーやアプリケーションの特性、組織体制、セキュリティ・ポリシーなどを環境構築時から考慮するなど、“戦略的”にクラウド導入を進めているケースです。クラウド利用におけるコストはもちろん、企業としての導入目的や運用モデルを精査し、CCoE(Cloud Center of Excellence)のような組織を立ち上げるところまで考える。これからは、そうした後者のような「戦略的なクラウド活用」にシフトしていくことが企業に求められています。
西村:弊社でもクラウド利用における“自社の最適解”を今まさに模索しており、前述したような膨大なトランザクションをリアルタイムに処理するようなシステムには、クラウドが適していると感じています。一方で、会計システムや「セブン‐イレブンアプリ」といったお客様が利用するようなアプリケーションが稼働するシステムなどを見たとき、運用まで含めてどのような形が最適なのかを見極めている最中です。ただし、議論してばかりではスピードが出ないため最低限のガバナンスはもちろん、特に可視性が落ちるとリスクが増えてしまうため、システムの可視化を進めながら最適解を探していますね。
──HashiCorpでは、企業のクラウド戦略に関する年次調査をされています。近年のクラウド環境の特徴などはいかがでしょうか。
花尾:おっしゃる通り、弊社では「State of Cloud Strategy Survey(クラウド戦略実態調査)」という、グローバルで数千人を弊社のお客様・パートナー様からランダムにピックアップして集計する調査を年に1回実施しています。最近の調査結果によると、不景気感もあるなかで56%の企業が今後もクラウドへの投資を増やしていくと回答しています。
その一方で、クラウドの運用スキルのキャッチアップが難しい、「クラウドを使いたいけど、課題がある」との回答者が94%もいました。そうした課題においては、CCoEに代表されるような戦略組織の組成が1つの解決策となっているようです。そこで西村様にもお聞きしたいのですが、セブン-イレブン・ジャパン様では、クラウドのコストやスキルギャップなどにおいて、どのような課題が感じているのでしょうか。
西村:これまでミッションクリティカルなシステムには積極的に投資してきたこともあり、特に「クラウドコストの最適化」を常に意識しています。たとえば、従来のオンプレミス環境における運用コストとの比較を1つのKPIとしてコストの差異を計ったり、そもそも今の運用において支払っているコストが妥当なのかを可視化したりと、適切な利用状態へ導くことを目指しています。
花尾:コスト最適化などに取り組む、組織メンバーの体制やスキル面はどうでしょうか。
西村:もちろん、こうした取り組みを我々だけで100%内製化するとなると、恐らく数千人単位の人員が必要となるため今は現実的ではありません。従いまして、オンプレミス環境で運用していた頃からお世話になっている既存のSIerも含めた体制で、クラウドへの投資や組織体制の強化など全員で力を発揮できる状態を目指しています。とはいえ、自社メンバーがクラウドをより最適利用できるようなスキルセットも欲しいため、今まさに目指すべきペルソナ設定とそれに向けた教育プランを検討中です。
──クラウド活用はもちろん、DXの現場では改革を進めるにあたり組織の文化的衝突もあると聞きます。セブン-イレブン・ジャパンでも苦労された経験はありますか。
西村:その観点において、私は他の同業者の方々と比べてとても恵まれていると感じています。というのも、セブン‐イレブン・ジャパンには情報分析システムが元々整備されており、毎朝、全国全店舗の数字がバチッと揃った形で出てきます。そうした店舗のPOSデータから売れ筋の商品を分析し、機会損失を減らすなどの取り組みを徹底的にやってきており、数十年前からデータドリブンの素地が養われているのです。そのためセブン‐イレブン・ジャパンの経営陣をはじめ全社員はデータへの感度が高く、データドリブンの重要性をDNAとして理解しているため、DXへの抵抗ハードルは低いですし、むしろ背中を押されている状況と言えます。