ウクライナ侵攻では「サイバー空間」も戦場に
西尾氏はまず、2022年2月24日から起きたロシアによるウクライナ侵攻を振り返り、そこで展開されたサイバー攻撃について触れた。現在の戦場は陸・海・空、宇宙だけでなく、サイバー空間にも及んでいるとし、ロシア・ウクライナ有事は「人類が経験する初の全面的なハイブリッド戦争である」と説く。
この戦争の舞台裏ではロシアのサイバーオペレーションが進行しており、これを主導しているのは旧KGB系の組織、FSBであると指摘されている。同組織は、社会インフラに対するサイバー攻撃を行う能力を有していると見なされており、軍事侵攻が発生する前の段階で外交交渉の一環としてサイバー攻撃が利用されているというのだ。
ロシアがウクライナに侵攻する前から、FSBによる様々なサイバー攻撃が疑われている。その対象となったのは、国の機関ではなく、民間のISP(Internet Service Provider)であった。この事実からも、「私たちは民間企業が攻撃の対象となる新しい時代に入りつつある」と西尾氏は指摘した。
西尾氏はロシア軍がウクライナの原発を攻撃し、その機能を停止させた事件について言及。この攻撃による被害は、大規模な核廃棄物の漏れなどの大災害には至らず、機能停止にとどまる結果となった。西尾氏ら安全保障の専門家たちは、このオペレーションを見て「驚愕した」という。その理由は、ロシアが単に原発を攻撃したという事実ではなく、ダメージを最小限に抑え、機能のみをピンポイントで停止させたからである。実は、この攻撃の数日前にウクライナの原発メーカーに対するサイバー攻撃があり、設計図や緊急時の手順などの重要情報が漏洩した可能性があると西尾氏は指摘。民間企業が次々と攻撃されているのだ。
また、ロシアによるサイバー攻撃は、ウクライナ侵攻の1年前から既に行われていたと考えられるという。西尾氏は、日本近隣においても2024年から2025年にかけて有事が発生するといった報道がある中、日本の民間企業への攻撃が現在進行中である可能性も考慮に入れなければならないと警鐘を鳴らした。