基幹システムを「概念データモデル」で再構築
JFEスチールの事業遂行におけるDXの重要性は非常に高い。現在は、第7次中期経営計画(2021年度〜2024年度の4ヵ年)の達成を目指し、「積極的データ活用により、競争優位を獲得」という全社方針で、変革を進めている。同社の競争優位の源泉は、これまでの長い事業活動で蓄積してきたデータ資産にある。そこで、「1.IT構造改革の断行」「2.データ活用レベルの高度化」「3.ITリスク管理強化」をDX戦略の柱に据え、攻めと守りの施策を同時並行で進めている。
JFEスチールのコンピューター利用の歴史は長い。一般に、製鉄の工程は大きく「高炉での銑鉄の生産」「転炉での不純物の除去」「圧延やめっき加工などの下加工」に分かれる。鉄鋼メーカーの中でも、JFEスチールは、基幹設備となる高炉を複数基所有し、鉄鉱石から銑鉄を生産し、最終製品として出荷するまでを一貫して行う高炉メーカーになる。一連の生産プロセスを効率的に制御するため、同社では1960年代からメインフレームコンピューターを使ってきた。一部では今もなお、COBOLやアセンブラのソースコードが現役で動いており、プログラムステップ数に換算すると、製鉄所すべてを合わせて2億ステップを超える規模だ。この他、制御系のプログラム資産を含めると、全社のプログラム資産は膨大なものになる。
新田氏は、「鉄鋼業の場合、トランザクション数はさほど多くないが、トランザクションの中の項目数が非常に多い特徴がある」と説明する。というのも、鉄鋼業のビジネスは、基本的に一品一様の受注生産だからだ。注文書を例に取ると、トランザクションレコードの中には、注文番号から、需要家名称/コード、規格名称/コード、サイズ、数量、価格、持ち込み先のような一般的な項目に加え、“レシピ”と呼ばれる化学成分等の製品仕様が含まれる。その情報は商品品目によって変わり、3,000〜6,000項目にもなる。しかも、それが顧客の注文内容に応じて変わる。顧客から注文を受ける都度、新しいレシピを付与し、工場に指示を送ることになるため、他の業種業態と比べて1つのトランザクションにおける項目が多くなるのだ。
このトランザクションの特徴を考慮し、JFEスチールでは2003年にデータ視点で基幹システムのあるべき姿を定義する「概念データモデル」の手法を採用し、再構築を実施した。2007年から運用している「J-Smile(JFE Strategic modernization & innovation leading system)」がその基幹システムに該当する。