越境思考とは?
本イベントでは、3名の著者によってシステム障害対応は今後どうあるべきかが語られた。特に、テクノロジーやノウハウよりも、どのようにシステム障害に立ち向かうかという姿勢の重要性が強調されている。そこで取り上げられるテーマが、越境思考と協同だ。
ではまず、越境思考とは何なのか。沢渡氏が著書『新時代を生き抜く越境思考 ~組織、肩書、場所、時間から自由になって成長する』で解説しているように、「様々な壁を超えてオープンに協力する考え方や姿勢」のことをいう。
沢渡氏によれば、従来の統制型・ピラミッド型の組織では決められたことをきちんとやることに重きが置かれ、顧客や上層部が答えをもっている前提でプロジェクトを進めていくが、この方法は今や限界を迎えているという。
何が起こるかわからない時代では、組織の中に解決のためのノウハウがない状況も容易に想定できる。そんな状況に陥ったとしたら、もはや課題解決のしようがない。
そのため、組織の中にないものはない、同じ業界の中にないものはないという考えのもと、困っていることやノウハウをオープンにしながら、人と人、組織と組織、業界と業界がつながって価値を生み出す越境思考が必要になる。
さらに、越境思考に慣れていかないと、もはや課題解決や価値創造はできない時代であるとする。とにかくオープンにつながって答えを出していくことが不可欠だと、沢渡氏は語った。
協同とは?
そして協同については、野村氏と松浦氏が『3カ月で改善!システム障害対応 実践ガイド インシデントの洗い出しから障害訓練まで、開発チームとユーザー企業の「協同」で現場を変える』でテーマとして取り上げている。
野村氏はその中で協同を「開発チームとユーザー企業が助け合いながら障害対応にあたること」としている。SI(System Integrator)は一般的にピラミッド型で、障害対応のときもチーム内にこもって自分たちだけで取り組むことになりがちだ。そのせいで責任を押しつけられてしまうので、正しく責任がもたれるように協同の考え方が欠かせないという。
野村氏は「開発時はクライアントや営業部門、企画部門の人と対話をしていたのに、障害対応になるとチーム内だけでやりくりしてしまう状況を打破しなければならない」と指摘する。
共著者の松浦氏はSIの野村氏にとってクライアントでありユーザー企業という立場になるが、だからこそサービスのことをよくわかっている立場として協同に参画する必要があると語る。また逆に、野村氏はシステムのことを熟知しているので、お互いに知っている得意領域からノウハウを引き出して障害対応にあたらないとうまくいかないという。
越境思考と協同でナレッジマネジメント
ここで重要になるのがナレッジマネジメントである。沢渡氏は本書を読んだ感想として、「ナレッジをどう蓄えていくかが書かれています。また、障害対応をするときの向き合い方を知識にしていくことも大事です。越境思考と協同で様々な人や組織のノウハウを受け取ったら、それを社内外に発信するということです。顧客やクライアント、経営層との対話も欠かせません」と話す。
また、システム障害が起きると、現場もクライアントもすぐ対応しなくても困らない程度のものなのに、マネージャーだけが張り切って即対応をしようとするケースが散見されるが、このような「騒ぎすぎ」もよくないという。騒ぐべきときはチームに解決のためのナレッジがないときであり、そのときにこそ越境思考や協同が力を発揮する。
越境思考と協同の取り組み方
では、どうやって越境思考と協同に取り組めばいいのだろうか。野村氏は「とにかく何か一緒に取り組むための共通ゴールを見つけて、小さくてもいいので部署や会社、業界を越境して課題解決すること」が大事だという。
いきなりDXやビジネスモデルの変革といった大きなテーマを掲げても、ピンとくる人は少ない。また、テーマが大きすぎると関わる人数も増え、最初の一歩には適さない。
一緒に取り組むための共通ゴールを見つけるには、まず相手の関心や心の動くキーワードを探ることが大事だそうだ。自分としては最終的にはDXに取り組みたくても、まずはもっと小さいことから始める。課題を細分化し、それを1つずつ解決するイメージである。
たとえば、チームの上長に対し「現状だとエンジニアの帰属意識が下がって辞める人が増えていくので、エンゲージメントを向上するというテーマで課題解決してみませんか?」と提案してみれば、上長にとっても問題意識のある領域なのでDXよりも関心をもってもらいやすい。
大事なのはやりっぱなしにしないことだ。今までとやり方を変えると、おとなしい人がいきいきし出したり、新しいアイデアが生まれたりする。越境してよかった変化はどんどん発信したほうがいいと野村氏はいう。
そうすると、興味をもってくれる人が増える。意外と役員が面白がったり、思わぬ協力者が現れたりもする。心の中で応援していた人が手を挙げてくれるなど、組織を超えてつながり始める。
障害対応チームの価値を高める対話
沢渡氏は情報システム部門のよくないところとして、チーム内で愚痴り合うことが多いという点を挙げた。そんなことをしていても会社も世の中も変わらないので、野村氏と同様に、もっとオープンに対話していくべきだとする。顧客や経営層と対話をしていけば、どんどん頼もしいチームと思われるようになり、チームの価値が上がっていく。いわばブランディングである。
システム障害対応というサービスを支える仕事をしていても、発信や対話をしなければ自分たちの価値が高まらない。これが、沢渡氏が著書で強く伝えたかったことだ。
と同時に、上層部に「評価してくれ」「褒めてくれ」と進言することも大事だという。そもそも担い手が少ないため、やりたいと思う人を増やすには社内で一目置かれている存在だと認識されていなければならない。しかし、上層部に話を聞いてもらうには、普段から対話の習慣を作っておく必要がある。
越境思考と協同は、このようにチーム外の人と対話をすることから始まる。それは課題やノウハウの共有であり、障害が起きたときであれば率直に状況や原因を説明することであり、あるいはそもそもお互いの自己開示をして理解を深め合うことでもある。そうすることで障害対応チームがサービスの要件定義から関われるようになったり、別の部署や会社の人からサポートしてもらえるようになったりする。
「景色が変わると意識が変わり、組織が変わる」とは沢渡氏の言葉だが、この言葉の実践がシステム障害対応の未来を支えていくキーワードとなるかもしれない。