建築AIから半導体設計までの買収・提携戦略
オートデスクが独自の設計デザイン生成AIを発表できた背景には、「Blank.AI」の買収が大きく影響している。この買収により、オートデスクは工業デザイナーのコンセプトを拡張し、わずか数ミリ秒で3Dモデルを作成する能力を手に入れた。同社の生成AIは、既存の企業ライブラリからデータを取り出し、既存のデザインスタイルとガイドラインに基づいて新しいコンセプトを迅速に生成するもので、オートデスクの自動車デザインスタジオで既に採用されている。
さらに、キンダー氏は、Autodesk Fusion 360における第一のサードパーティ拡張機能として、プリント回路基板(PCB)設計の機能強化のためAnsysとの協業、および電子システム設計ツールのケイデンスとの提携を発表した。
また、10月に買収が発表されたFlexSimについても触れた。FlexSimは製造工場や物流倉庫の生産性向上・効率化を目的とした3Dシミュレーションソフトウェアを提供しており、工場の設計データと運用データをつなぐ重要なリンクを提供する。FlexSimの買収により、工場運営、建築設計、および建設に関するソリューションを一か所に統合し、計画、設計からデジタル工場の構築、運用までを全面的にサポートする体制を整えることができると述べている。
きのこ建材によるハウジング「プロジェクト・フェニックス」
一方、AEC(建築、エンジニアリング、建設)設計ソリューション担当エグゼクティブVPのAmy Bunszel氏は、同業界向けソリューション「Forma」を紹介した。「FormaはBIMをさらに発展させたもので、オートデスクのAIによって駆動されている」と説明し、その特徴を詳述した。「FormaはBIMツールのRevitのブラウザ版にはとどまらない。AIによるデザイン支援ツールで、建築計画の初期段階から望ましい結果を念頭に置いた計画を可能にするもの。例えば、建物内の賃貸ユニット数、室内の日光量、太陽光パネルの配置を計画し、さまざまなコンセプトを分析・テストすることができる」と述べている。さらに、「Forma」のAIは日光や騒音などの要因に対する設計上の決定の影響を理解するのに役立つと強調している。
「Forma」は元々建築設計を主な用途としていたが、現在ではインフラや製造設備管理などの分野へと応用範囲が広がっている。また、BIMプロセス全体をカバーするように進化を目指しており、「Revit」などの既存ツールとの連携も強化されていることが示されている。
「Forma」を使った先進的なプロジェクトの例がAmy Bunszel氏によって紹介された。「Project Phoenix」は、カリフォルニア州オークランドで進行中の住宅開発プロジェクトである。オークランドは300万戸以上の住宅不足に直面しており、深刻な住宅危機が存在している。このプロジェクトは、手頃な価格の住宅をコミュニティに提供すると同時に、迅速かつ持続可能な住宅供給方法のテストケースとしても機能している。特に注目すべきは、カーボンニュートラルを目指してマイセリウム(キノコの素材)を建材として使用している点で、これにより従来の建材に比べて70%多くの炭素を吸収することが可能になっている。
続いてオートデスクのCTOであるラジ・アラズ(Raji Arasu)氏が、AIとデータの重要性について言及した。アラズ氏は、データがAIの成功にとって不可欠であり、精密かつ広範囲なデータに依存することでユーザーに価値を提供することができると語った。
オートデスクのデータサービスの核心は、同社のデータモデルにある。このモデルは、設計、製造、プロジェクトデータを詳細かつアクセスしやすい形で管理し、クラウド上のナレッジグラフを通じてリアルタイムでアクセスを可能にする。例えば、エンジニアリング会社「Arkid」はこのモデルを活用し、顧客に深い洞察を提供し、持続可能なプロジェクトの進捗を追跡している。彼らは以前、週に数千のモデルに対して大規模なデータ抽出を行っていたが、オートデスクのモデルを採用してからは、BIMマネージャーの作業効率が大幅に向上し、顧客への価値提供を40%増加させたという。
オートデスクのアプローチは、AIとデータモデルを核として、建築から製造業、メディアまでの幅広い分野で、持続可能で効率的なソリューションを提供し続けている。「AU 2023」では1万人規模の参加者が、600を超えるセッションでこうした情報を共有し、最新の技術動向を学び、業界の専門家との交流を深めた。