「データドリブン経営」の推進役に新卒IT人材を抜擢
「カップヌードル・シンドローム」──あまりにも強い看板商品を持つ日清食品グループが恐れるのは、それに安住し、自ら進化を止めてしまうことだ。変革のDNAは情報システム部門にも宿る。これまで「DX銘柄2020」「DX注目企業2021」に選出されたほか、2023年4月には社内専用のChatGPT環境「NISSIN AI-chat」を開発し、機能性・システム構成やユースケースを公開。生成AI活用を模索する多くの企業の“お手本”にもなった。
そんな日清食品グループが、2030年に向けた中長期成長戦略を踏まえ、今後強化すべきIT施策として掲げるのが次の5つだ。
- サイバーセキュリティ
- グローバルITガバナンス
- 業務部門のデジタル活用支援
- 先進ネットワーク/モバイルデバイスの活用
- データドリブン経営に寄与する基盤の整備
これらを実現するため、各注力施策をほぼそのまま冠した組織も立ち上げた。組織図を見れば、会社として何を強化していくのか一目瞭然というわけだ。成田氏は「会社のビジョンを明確にした上で、各メンバーが自身のキャリアを考え、挑戦したいことや身につけたいスキルなどに、できるだけ沿えるようにしたかった」と語る。
5つの注力施策の中で、本丸かつ成田氏が「最も長い道のりになる」と予想するのが、「データドリブン経営に寄与する基盤の整備」だ。2023年3月にはデータサイエンス室を設立し、成田氏は翌月に入社した粟野氏をここにアサインした。
粟野氏は、大阪ガスを“最強のデータ分析組織”に押し上げた、滋賀大学 データサイエンス学部 河本薫教授のゼミ出身。学生時代から産学連携でデータ分析に取り組んできたという。
「大学では、購買データをもとにお菓子の売上向上施策を提案したり、工場のデータから機械学習で異常を検知したりするなど、データ分析の結果から何が導き出せるのかを企業の皆さんと一緒に考えてきました。河本先生はよく、『データ分析はあくまで手段だ』とおっしゃっていました。社会人になって改めて、その通りだと実感しています」(粟野氏)
日清食品グループでは、デジタル人材を育成する社内向け講座「NISSIN DIGITAL ACADEMY」を2024年度に新設し、情シス部門に限らず全社員のリテラシー向上に取り組んでいく予定だ。ここでは粟野氏は“先生役”となって、データ分析やプログラミングのノウハウを伝えていくという。
「今も粟野が中心となって、情シス部門のメンバーにPythonを指南しています。新卒ですので粟野が教わる立場になることも多いのですが、粟野の存在は先輩社員たちにも非常に良い刺激になっているようです。それに、そうしたPythonの研修を全社にも展開したところ、粟野が指導する講座は募集当日に満席になりました」(成田氏)