S/4HANA移行に伴う“重要な変更”
──日本企業のSAP S/4HANAへの移行はどの程度進んだのでしょうか。
2023年4月に実施した調査結果になりますが、国内では全体(n=211)の10%がS/4HANAを稼働済み、移行を決定している企業が37%、まだ移行するかを決定していない企業が36%、移行しないと決めた企業が17%という内訳でした。四半期ごとに実施しているグローバル調査では、増加傾向にあるので、2023年4月に未決定とした企業でも検討が進んだとみています。
設問:SAP S/4HANAへの移行について、記者の状況を教えて下さい。(有効回答数:211)
選択肢 | % |
---|---|
SAP ERPを利用しているが、移行に関しては未決定 | 36% |
SAP ERPを利用しているが、移行しないと決定 | 17% |
SAP S/4HANAの移行が決定しライセンス契約を交渉中 | 21% |
SAP S/4HANAの移行が決定しライセンス契約を購入済 (移行プロジェクトは未実施) |
7% |
SAP S/4HANAの移行が決定しライセンス契約を購入済 (移行プロジェクトに着手済) |
9% |
既にSAP S/4HANAを稼働させている | 10% |
図1:国内におけるSAP S/4HANAへの移行状況 出典:Gartner(2023年4月)
──「SAP 2025年問題」が認知され始めたばかりの頃、移行を決定した企業にとっての課題の1つはエンジニアの確保でした。その後、状況は変化したのでしょうか。
SAPもパートナーも人材育成に力を入れているのですが、需要が供給を上回る状況にあります。元々、ECC 6.0の保守期限(当初は2015年だったものが、2020年に延長、2025年に再延長、2027年に再々延長された)に向けて、既存ユーザーはS/4への移行を進めてきました。それがここにきて、移行時期に関して、考慮するべき新しい材料が加わったのです。
SAP S/4HANAにはS/4HANA Cloud Public Edition、S/4HANA Cloud Private Edition、S/4HANA On-Premiseの3種類のエディションがありますが、後者2つのどれかを選ぶ場合、SAPが提供する最新機能を使うため、バージョンアップが必要です。Private Editionの場合、5年に設定されている標準保守期限までに実施する必要がありますが、2023年10月から提供の始まった「2023リリース」で重要な変更がありました。この「2023」は、完成度の高いバージョンと見なされていて、これまで「1709」「1809」「1909」「2020」「2021」「2022」「2023」と、年に一度だったリリースサイクルが「2023」以降は2年に一度になることをSAPは発表しました。さらに、「2023」以降の標準保守期間を5年から7年に延長することを発表しており、「2023」は2030年まで使えることが明らかになっています。
この変更が、早く移行した企業にとっての不利益にならないよう、SAPは救済措置として、「1709」「1809」「1909」のユーザーには2025年までの延長保守を選べる救済措置を提供しています。その結果、ECC 6.0からS/4への移行需要の波が2025年に来ているところに、既存ユーザーのS/4バージョンアップの需要が重なることになりました。
──2つの需要の波が2025年に重なったことで、エンジニアの確保がより難しくなったということですか。
これまでは分散していたバージョンアップ時期が、2025年に集中することになりました。延長保守を選んだ場合、通常の保守料金に4%の追加が加算されるのですが、延長してでも長く使えるバージョンを選ぼうという判断になるでしょう。