きっかけは「10年後もナンバー1でいられるか」という危機感
大和ハウス工業がBIM推進室を立ち上げ、BIMへの取り組みを開始したのは2017年のことだ。宮内氏は当時を振り返り、「我々は現在、建設業界では売上高ナンバー1。しかし10年後にこのまま居続けることができるか、このままいくと立ち行かなくなるんじゃないかという議論がトップ会議でありました」と話す。ゼネコンに10年遅れているという認識の下、技術向上のため全員一致でBIM導入を決めたという。
BIMは、コンピューター上に3次元で作成した建物の立体モデルに、コストや材料の仕様といった属性データ情報を入れて工程を管理し、情報活用を行うためのソリューションだ。米国で構想が生まれた後、日本では2009年が「BIM元年」と言われて導入の機運が高まった。それを考慮すると、大和ハウス工業の出遅れは否めない。しかし、「遅れたからこそどうやって、何をすべきかをクイックに考える必要があった」という宮内氏の言葉通り、同社は迅速に取り組みを進めてきている。
BIM導入の背景には、現場の作業員が減少しており、効率化が求められていた状況もあったという。また、BIMはグローバル展開を進めようという同社の方向性にも合致した。「BIMは世界で広がっており、オープンなプラットフォームになっている点が魅力でした」と宮内氏。
BIMを導入するにあたって同社は、営業、設計、生産、施工、修繕・維持というすべての工程において、一気通貫で統合されたデータベースを土台にするという戦略を立てた。これは建築において設計と施工を一気通貫で行うことができる同社の差別化要素を最大化するものだが、実現するためには、それまでバラバラだったデータを統合する必要があったという。
BIMを入り口にして施工のデジタル化を進め、目指すのは“デジタルな大和ハウス工業”だ。そのためにDXは不可欠になる。同社は2022年に立てた5ヵ年計画となる「第7次中期経営計画」で、収益モデルの進化・経営効率の向上・経営基盤の強化という3つの経営方針を打ち出しており、DXはその土台に位置付けられている。
同社が進めるDXでは、経営基盤の強化を主な目的にオペレーションの効率化などを進める「守り」、そして収益モデルの進化を目的に顧客体験の向上を図る「攻め」を両立させる戦略をとっている。最終的には新規ビジネスの創出を狙うものだ。
攻めと守り、両方のDXの中心にあるのが「建築プラットフォーム」。その狙いについて宮内氏は、「業務効率を図るための“守りのシステム”と収益モデルを上げるための“攻めのシステム”を、同じプラットフォーム上に構築していきたい」と説明する。背景にはDXへの投資効率もあるが、それだけでなく「守りのDXだけでは疲弊してくるし、社員のモチベーションがあまり上がらない」とした。守りのDXの先にあるイメージは、人員削減や業務の増加など、社員にとってプラスのイメージに捉えがたいものもある。そこで、「何が攻めのDXか」といった攻めと守りの区分けも重要だと宮内氏は説明した。