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インシデントとシステム障害は何が違う? 「インシデント対応」の基礎を再復習

効率的なインシデント対応に向けた、4つのポイント

 みなさんは、「インシデント対応」について正しく理解できているでしょうか。言葉は知っているけれど、なんとなくの理解に留まっている人もいるかもしれません。また、類似の用語として「システム障害対応」というものもあります。インシデントとシステム障害は何が異なるのでしょうか。 本稿では、システム運用において避けては通れないインシデント対応について解説します。

「インシデント対応」とは?

 インシデント対応とは、ITシステムの運用において「ユーザーが正常にサービスを利用できない状態」が発生した際に、迅速にシステムやサービスを復旧させるための取り組みを指します。一方で「インシデント」は、将来的に重大な事件に発展する可能性のある事象、小さな事件を意味します。

 つまり、ユーザーの操作ミスからシステム障害まで、幅広い事象がインシデントに含まれます。たとえば、ユーザーがパスワードを連続で誤入力してアカウントがロックされたり、システムのライセンスが切れてエラーが表示されたりする状況などもそうです。

 一方、セキュリティ分野では「セキュリティを脅かす恐れのある事象」をインシデントと呼びます。具体的には、不正アクセスによる情報漏えいや改ざん、サイバー攻撃やマルウェア感染によるシステム異常などが該当します。

 現代社会では、あらゆるサービスがITシステムに依存しているため、インシデントの発生はサービスの停止や品質低下を引き起こし、ユーザーに大きな影響を与えます。特に、医療や金融など、人々の生活に直結するサービスでインシデントが発生した場合、その影響は甚大なものとなります。そのため、迅速かつ適切なインシデント対応をとることが重要なのです。

システム障害とは

 システム障害とは、システムに問題が発生して正常な状態を維持できない状況やその原因を指します。ハードウェアやソフトウェア、ネットワークなど、システムを構成するさまざまな要素において問題が発生します。

 障害の影響はサービス内容や業種によって異なりますが、ユーザーへの影響が大きいほど企業の損失も大きくなります。たとえば、金融機関でシステム障害が発生した場合、ATMが利用できなくなったり、送金や決済ができなくなったりするため、個人や企業の経済活動に大きな支障をきたします。また、通信会社でシステム障害が発生した場合、携帯電話やインターネットが利用できなくなり、社会全体のコミュニケーションに深刻な影響を及ぼします。

 システム障害の主な要因は、内的要因と外的要因に分けられます。内的要因はソフトウェアのバグや設定ミス、ハードウェアの故障、運用担当者のヒューマンエラーなどです。一方、外的要因には自然災害や停電などによる物理的な影響、サイバー攻撃によるシステムへの不正アクセスや改ざんなどが含まれます。

インシデントとシステム障害の違いとは?

 インシデントとシステム障害は密接に関連していますが、異なる概念です。

 インシデントは、ユーザーが正常にサービスを利用できない状態を指します。原因として、システム障害だけでなく、ユーザーの操作ミスや設定ミスなども含まれます。一方、システム障害は、インシデントの要因の1つであり、システムに問題が発生して正常な状態を維持できない状況やその原因を指します。

 つまり、システム障害はインシデントの要因の一部であり、インシデント対応はシステム障害の対応を含む、より広範な概念と言えます。

企業が直面するインシデントのリスク

1. インシデントの増加とシステムの複雑化

 近年ますます企業のITシステムは複雑化しており、インシデントも増加傾向にあるなど、企業はさまざまなリスクに直面していると言えます。複雑なシステムでは、1つの障害が他の部分に波及しやすく、影響範囲が広がりやすいという特徴があります。また、クラウドサービスの普及により自社だけでなく、外部サービスも利用するケースが増えており、障害の原因特定や対応がより難しくなっています。

2. 重大なインシデントによる損失

 重大なインシデントが発生した場合、サービスの停止時間が長くなるほど損失額も大きくなります。金融システムの障害であれば、取り引きができない時間が長引くほど、金融機関の損失は拡大しますし、Eコマースサイトの障害であれば、アクセスできない時間が長引くほど、販売機会の損失が拡大します。さらに、インシデントの復旧作業や原因究明、再発防止のための対策にもコストがかかるため、企業経営に大きな影響を及ぼします。

 インシデントによるサービス停止は、企業の信頼損失につながり、ユーザー離れや新規顧客獲得の妨げとなります。特に、個人情報の漏えいや改ざんなどのセキュリティインシデントが発生した場合、企業のイメージは大きく低下し、回復するのに長い時間を要します。加えて、インシデントへの対応が不適切であったり、説明責任を果たせなかったりした場合、企業の姿勢が問われて信頼の失墜につながります。

3. 非効率なインシデント対応による影響

 非効率なインシデント対応は、保守・運用コストの上昇、優秀な人材の離職にもつながりかねません。

 インシデントが頻発し、その都度人手をかけて対応していてはコストがかさむだけでなく、担当者の疲弊にもつながります。また、インシデント対応に追われるあまり、本来の業務に支障をきたすことで、優秀な人材が離職するリスクもあります。したがって、効率的なインシデント対応の仕組みを構築することが、企業の持続的な成長にとって不可欠です。

次のページ
インシデント対応の流れ

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この記事の著者

草間一人(jacopen)(クサマカズト)

PagerDuty株式会社 Product Evangelist
通信事業者でプラットフォームエンジニアを務めたのを皮切りに、いくつかの外資系企業でプロフェッショナルサービスやプリセールスエンジニアとしてクラウドネイティブやプラットフォーム製品に携わるなど、10年以上さまざまな形でプラットフォームに関与し...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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