ITサービス業界では、従来型のSIビジネスから脱却し、新たな価値を創造する動きが加速している。そんな中、SCSKは「デジタルオファリング集団への変革」を掲げ、業界内での存在感を高めようとしている。その一環として、昨年、外資系IT企業で実績を積んできた菊地真之氏がSCSKに転身したことが注目を集めた。今回は菊地氏へのインタビューを通じて、SCSKの改革の方向性と、ITサービス業界全体の変革の兆しを探る。
外資系ITを駆け抜けたグローバルプロフェッショナルが純国産SIに移籍した理由

システムインテグレーション企業(以下、SI企業)は、外資系ITベンダーと比べると、派手さに欠けるというイメージを持たれがちである。多くの企業が独自のプロダクトを有しているものの、その魅力が十分に伝わっていないことも少なくない。
従来、市場の限界が指摘され、多重下請け、人月ビジネスなどの批判にさらされがちだったSI企業だが、実態を見てみるとここ数年、業績の堅調さが目立つ。なかでも、国内大手SI企業であるSCSKは、近年そのイメージを一新しつつある。同社の広告やテレビCMなどを目にする機会も増えた。
SCSKは、2024年7月に発表した技術戦略「技術ビジョン2030」において、2030年までにデジタルオファリング事業の比率を70%以上に引き上げることを目標に掲げた。さらに、生成AIを活用した「AI駆動型開発」の適用や、高度デジタル人材を10,000人に拡充するなど、具体的な数値目標も示している。
この技術戦略では、AI/データ活用、クラウドネイティブ、UXデザイン、サイバーセキュリティなどの技術領域に注力することが明記されている。これらの技術を融合させ、ビジネスやサービスの価値向上を図るとともに、社会課題の解決にも取り組む方針だ。
さらに同社は、従来の縦割り組織から、より柔軟で横断的な組織構造への移行を進めている。特に注力しているのが、外部からの優秀な人材の登用である。その象徴的な事例が、2023年12月に執行役員に就任した菊地真之氏の採用だ。菊地氏は、SAPジャパン、アドビ、ワークデイ、Brazeなど、複数の外資系ITベンダーで要職を歴任してきた実力者。菊地氏の転身は、業界内でも驚きを持って受け止められた。
菊地氏は転身の理由について次のように語る。
「私を知る人はみんな驚いたようです(笑)。キャリアの始めはSI企業だったものの、外資系プロダクトベンダーの経験が長かったからです。SCSKとは入社前にNDAを結んで事業状況をヒアリングし、複数回のミーティングをしました。結果、SCSKが本気で変革に取り組んでいると強く感じたのが理由です」
SCSKの本気度を感じ取った菊地氏は、SCSKの現状と今後の方向性について理解を深めた。その過程で、SCSKの強みがデジタルエンジニアリングの力にあることを認識したという。
「入社して感じたのは、SCSKのデジタルエンジニアリング力が予想以上に幅広いことです。『住商の子会社』『元CSK』で典型的なSIerと見られがちですが、自社開発のモビリティ事業のサポートやIoT見守りサービス、グローバル製品の実装まで手がけています。さらに、AWSやGCPなどと直結したデータセンターも運営しています。その幅広さは、今後オファリング事業に取り組む上で充分強みになると思いました」
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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