3つの“P”にデータとデジタルで貢献する
次に石丸氏は、武田薬品工業が製造DXで目指すビジョンについて説明した。同社は、以下のような“約束”を社内外に向けて掲げている。
PATIENT:すべての患者さんのために
- 私たちは、倫理観をもってサイエンスの革新性を追求します。そして、人々の暮らしを豊かにする医薬品の創出に取り組みます。
- 私たちの医薬品を、より多くの人々に迅速にお届けします。
PEOPLE:ともに働く仲間のために
- 私たちは、理想的な働き方を実現します。
PLANET:いのちを育む地球のために
- 私たちは、自然環境の保全に寄与します。
データとデジタルの力で、イノベーションを起こします
- (上記3つのPの達成に向けて)データを活用して導き出された成果をもとに、もっとも信頼されるバイオ医薬品企業として、これからも変革し続けます。
3つのP(PATIENT・PEOPLE・PLANET)について、データとデジタルを活用してどのように取り組みを進めていくのか。
まずはPATIENT(患者さん)。これに関して、同社は「高品質な医薬品の安定供給で貢献する」と石丸氏。例として、“原材料”にまつわる取り組みを紹介した。原材料が医薬品として出荷されるまでには、様々な製造工程や試験を経る。それを1枚のダッシュボードで管理し、どこにモノが滞留しているのか、どこで時間がかかっているのかを可視化しているという。すると、自然とサプライチェーンの改善すべきポイントを特定し、効率的に施策を打てるようになる。
次にPEOPLE(人)。ここでいう“人”とは、社員のことだ。「社員とデジタルの連携で生産性と働き方を改善する」と石丸氏は説明する。たとえば、製造試験などといった一部の工程では、未だに紙で記録をとるような仕組みが残っているという。それをデジタルツールに置き換えることで、製造現場や試験現場におらずとも承認作業が可能となる。また、ARやVRを活用した“体験をともなう学習”を社員に提供し、より実践に近い環境下でのスキルや仕事の理解・習得を促進することにも取り組んでいるとのことだ。
最後にPLANET(地球)。ビッグデータの活用で環境への負荷や影響、たとえば水や電力をどれくらい使用しているかなどを見える化し、最適化を進めていると石丸氏は語る。
MLやAI、デジタルツインなどを活用した予測型工場が複数拠点で稼働
ここからは深川俊介氏が、同社の具体的な製造DXの取り組みや成果について紹介した。
たとえば、「予測型工場」の実現について。これは、製造工程や試験設備、さらにはそれらを取り巻く温度や圧力などの状況データを収集し、リアルタイムにモニタリングし、そこから次に何が起こるのかを予測する次世代の工場だという。
「データを収集して、機械学習(ML)やAIの力を活用すれば、設備の故障などといった医薬品の供給を妨げる障害を未然に、そして迅速に回避できるようになります。そうなれば、患者さんのもとへいち早く高品質なお薬を提供できるようになります」(深川氏)
既に、ビッグデータを利用した予測モデル開発により、原薬収量を向上させた事例が山口県の光工場にて観測されているほか、スイスのヌーシャテル工場では、デジタルツインツールの開発による製品収量の改善が達成できているという。また、大阪工場などでは、設備異常の予兆を検知し、迅速に対策に乗り出せる仕組みが出来上がっているようだ。
環境負荷削減の取り組みでも、いくつかの事例が紹介された。たとえば大阪工場では、蒸留水の使用量を監視することで現場作業の改善機会を特定し、設備調整・作業の最適化を実現。結果、蒸留水の年間使用量を45万リットル以上削減できたうえ、蒸留水製造に必要な都市ガスの年間使用量も7,900㎥以上削減できたと深川氏。合わせて、従来比約27%の削減となる。
加えて同発表会では、昨今の日本で頻発しているサイバー攻撃の被害や、不意のシステム障害などといった事態に備え、サプライチェーン全体でのセキュリティ強化にも急速に投資を進めていることが明かされた。