SREツールの活用は、文化醸成に影響する外部発信に向いている
イオングループには、ダイエーやカスミ、ウエルシア、ミニストップなど、多くの小売チェーンが参画している。従業員数は60万人を超え、営業収益は10兆円に達する国内最大手の小売事業グループだ。また、イオンは持株会社であり、同社事業を300社ほどの子会社がそれぞれ担当している。
そして、それらグループ企業のデジタル戦略を技術面で推進しているのがイオンスマートテクノロジー(以下、AST)だ。同社は「イオングループのすべてのビジネスをテクノロジーの力で進化させる」というミッションのもと、デジタルシフトを戦略的に進めている。たとえば、イオングループの店舗と顧客をつなぐプラットフォームとして、暮らしに関連する多様なアプリやサービスを共通IDで提供する「iAEON」の開発や、従業員向けシステムの構築、さらにはイオングループ全体のDX推進を手掛けているという。
山﨑氏は「iAEONは最近1000万ダウンロードを超え、国内では記録的なスピードで成長しているアプリです。iAEONで多様な顧客体験を提供することは重要ですが、最も重要なのは『IDの統合』です。イオングループには、異なる歴史を持つ企業があり、それぞれ独自のIDサービスやシステムをもっています。それらを無視することはできないため、ASTはIDとデータの統合を通じて、イオングループ全体として日本社会の改善に貢献することにチャレンジしています」と述べる。
同氏はイオンのCTOとして、グループ全体のDX推進をミッションとしている人物だ。イオングループは歴史ある“巨大なエンタープライズ”でもあり、古いソフトウェアやベンダー依存といった課題が多く残っており、それらを一つずつ解決していかなければならない。そのためには“文化の醸成”が必要だと考え、「イオングループ×DX×IP」というテーマで、2023年10月から外部に向けた発信を続けている。
ASTでは、SRE関連ツールとしてTerraform、New Relic、PagerDutyを活用しており、山﨑氏は「これらはイオングループの『三種の神器』だと思っています。また、外部発信にも非常に親和性が高いと考えています」と語る。たとえば、Javaプログラムのリファクタリングのような作業は、プロジェクトの承認を得るまでの難しさはあるものの、これらのツールを用いた運用の自動化・可視化は、新たな価値を創出できるとあって推進しやすい。こうした分野には専門的なコミュニティやエンジニアのワーキンググループが存在しており、熱心な支持者も多いだろう。
だからこそ、今回Platform Engineering Talk sessionに参加したとして、「HashiCorpのTerrafromやVaultを活用することで、イオンのブランド力が向上し、仲間も増えています。目標は、この取り組みをイオングループ全体に広げることです。2025年度には、イオングループ内にCCoE(Cloud Center of Excellence)を設置し、すべてのクラウドアカウントの統合・自動化に挑戦したいと考えています」と言及。具体的な取り組みについて、齋藤氏に水を向けた。