集配密度が拓く新しいビジネスモデル
「集配車1 台あたりの集配密度」というインサイトを得たとき、宅配事業のモデルは一つの形をなした。小倉さんの本から、集配密度の概念が生みだした関係要因群と、集配密度概念がわかって以降の事業モデルの基本要因群を一つの図にまとめておこう。
「集配密度〉の概念を得て以降、何がわかってきたか。その一つは、必要となる集配車両数、取次店数、そして物流ネットワークの段階数といった運送システムの構造に関わる要因群の具体的な数字が見えてきたことである。
もう一つは、集配密度を高めるために家庭から出る小荷物の量を増やす工夫が何にも増して必要だという理解の下、主婦の宅配に関するニーズを喚起する必要があると考えたことである。そしてそのために、主婦が本能的に持ちそうな宅配への恐怖を取り除こうと考えた。
- 主婦と直接接する集配人の役割が重要になるので、そこは下請けに任せず自社社員にする。
- 女性ドライバーを起用する。
- そのために、荷物の重量も女性が持ち運びできるような制限をかける。
- 小荷物包装の仕事も最後は荷受業者に置く。
- 細かい料金体系をとらず均一にすることで主婦の面倒を少なくする。
「集配密度」という概念を得たことで未知の扉が次々に開いていった。ビジネスの世界において、新しいビジネスモデルや新しいマーケティングモデルが成立する背景には、きっとこうしたインサイトの瞬間があるのだと思う。拙書『ビジネス・インサイト』(岩波新書、2009 年)では、セブン-イレブンジャパンにおける「エリア集中出店戦略」概念の発見や、カルビーの「鮮度」概念の発見などを紹介したが、その中の1つにダイエーの創業者、中内功氏の「商品化」の概念がある。