データドリブン経営で成果が出ている企業はわずか3%
講演の冒頭、DIGGLEの水上氏はデータドリブン経営の実態として、データの利活用で全社的に成果を得ている企業の割合はわずか3%であるという調査結果を紹介した。回答結果を見ると、そもそもデータ活用に取り組んでいない企業が最も多い。
楽天グループの高橋氏は、社内でエンターテインメント領域における11の事業を統括している。そんな立場にある同氏は、「事業部ごとにやり方が違い、独自のExcelやレポート形式があったり、見ているメトリクスが違ったりして大変。経営層が数字(データ)を使い、どのような経営をしていきたいか意志を持つことが大切だ」と語る。高橋氏の場合、よく確認する数字は、売上や利益など、管理会計のPLの項目やCTR、CVRのようなインターネットサービスならではの指標とのことだ。
一方、日清食品の成田氏は「当社はまだその手前の段階にあるのが実情」と自社を分析する。同社の主力商品はカップヌードルという国民的なブランドであり、これまで必ずしもデータ分析を必要としなくても、大きな売上を上げてきたからだ。しかし、経営トップの決断により、現在はデータドリブンへの転換を図っている。
ただし、まだ道半ばだと成田氏。各システムで使用されるデータ(共通マスタ、部署マスタ、製品マスタなど)は、これまでは形式が統一されておらず、正規化もされていなかった。また、データ分析の基盤がなかったことに加え、従業員のデータ分析スキルもカルチャーも、全社的には整っていなかった。そうした状況を変えるべく、ここ数年データの集約と正規化、そして従業員のデータリテラシー教育に力を入れてきたと成田氏。「おそらく数年後に実を結ぶのではないか」と期待を寄せた。
元々DeNAやメルカリなど、インターネット企業での経歴も持つ成田氏だが、日清食品のITリテラシーについて「感覚としては、IT部門のメンバーはインターネット企業などと大きな差はなく、高いリテラシーをもっているように思う」と明かす。一方で、事業部門やグループ会社に目を移すと、IT企業とはリテラシーに差があるとした。
楽天の場合は、社長が元銀行員でもあるため数字には強く、一定のデータリテラシーはあると高橋氏。しかし「根がベンチャー企業なので、スピード重視」だと話す。いわゆる“Quick&Dirty”で走りながら仕組みを作ることが多く、必ずしも整備がなされているとは言えないとのことだ。また、「日次のユーザー数増加のようなわかりやすい数値以外の、最終利益や固定費の内訳まで見るような会計リテラシーはそこまで社内に浸透していない」と課題を語った。
データ活用の第一歩は“共通言語化”
データ活用の取り組みについて、楽天ではまず“共通言語化”から進めているという。高橋氏は、「利益に直結する売上やコストを把握するためのKPIツリーを作り、各事業の利益を最大化するにはどう数字のピラミッド分解ができるかを一緒に考えることから始めた」と振り返る。
「こうした数字は、事業部長や経営企画担当だけでなく、営業やマーケティング担当者も理解することが大切です」(高橋氏)
日清食品でも、共通言語化の必要性を感じているそうだ。営業部門やマーケティング部門にはデータ分析の文化こそ根付いてはいるが、以前はそれぞれの部門が独自にデータベースを構築したり、個別にベンダーに依頼したりといった状況で、同じプラットフォームを使えていない背景があった。他の部門を見ると、AccessやExcelで属人的に管理しているところもあったという。成田氏は、「もっと全体最適を考慮したほうがうまくいくはずだが、個別最適化でやってしまっている状況だった」と課題感を示すとともに、「まだ時間はかかるかもしれないが、全社的にしっかりメスを入れ、適正な状態を目指していきたい」と述べた。