「自主避難所」「孤立集落」の状況をいかに把握するか?
2024年1月1日16時10分、石川県能登半島沖でマグニチュード6.9の大地震が発生。同県七尾市、輪島市、珠洲市、志賀町、穴水町、能登町の6市町で甚大な被害が発生したほか、その周辺地域にも多大な影響が及んだ。石川県庁では発災直後から災害対策本部を中心に、被災状況を正確に把握するための情報収集に努めたが、県庁所在地の金沢市と被災地である能登半島が地理的に離れていることもあり、発災後1週間ほどは被災地の詳細な状況がなかなかつかめなかったという。
「特に、被災者の方々が身を寄せる避難所の状況を正確に把握することに苦労しました。当時は、あらかじめ定められている47ヵ所の指定避難所のほか、交通網が遮断されているなどの理由で指定避難所にたどり着けない方々が身を寄せるために、自然発生的に立ち上げられた約1,300ヵ所の自主避難所が存在していました。指定避難所に関する情報は市町を通じて伝達される一方で、自主避難所の状況を把握する術が当初はありませんでした」
こう語るのは、石川県 総務部 デジタル推進監室 専門員 谷場優氏。どの場所にどれほどの規模の自主避難所がいくつ存在しており、それぞれがどのような状況に置かれているかが把握できないと、適切な公的支援も提供できない。そこで同県は急遽、デジタル技術を使って自主避難所や孤立集落の情報を収集・可視化できる仕組みを急遽立ち上げることにした。
具体的には、被災地で救助・支援活動に当たっている自衛隊や消防隊、DMAT(災害派遣医療チーム)などが現地で集めた自主避難所や孤立集落に関する情報を突合し、市町が収集した指定避難所のデータとマージした上で、石川県総合防災情報システムでデータを一元管理する仕組みを構築するというものだ。この一連の仕組みは、2024年1月13日に行われた同県馳浩知事の記者会見でも説明された通り、極めて短期間のうちに立ち上げられた。これによって各避難所の場所、避難者数、インフラの状況などが正確に把握でき、県の支援リソースを適切に割り当てることが可能になったという。
被災者一人ひとりの情報を一元管理するDBを構築
同県ではこの「避難所の場所と人数」を特定する施策をステップ1と位置付け、次にステップ2として「避難者一人ひとりの属性や状況」を正確に把握するための取り組みに着手した。
発災直後に被災者が急遽身を寄せる1次避難所はあくまでも一時的なものであり、長期間の避難生活は想定されていない。もし、そこでの避難生活が長期に及ぶ場合は、ホテルや旅館などの2次避難所に移動することになる。また要配慮者(高齢者、障害のある方、未就学者など)とその同伴者に関しては、2次避難所に移動する前に「1.5次避難所」と呼ばれる場所に優先的に移動できることとした。
このように被災者は、状況の推移に応じて異なる避難所へと順次移動していくことになるが、新たな移動先で改めて被災者の情報を一から聞き取り調査していては膨大な手間がかかる。そこで、被災者一人ひとりの情報を一元管理し、そのステータスを逐次追跡できれば、被災者がどの避難所にいてもそれぞれの属性や状況に応じた支援を届けられると考えたという。
石川県庁は、発災2週間後の1月14日に早くもこの仕組みを構築するためのチームを立ち上げ、被災者一人ひとりに関する情報を一元的に管理する「広域被災者データベースシステム」の開発に着手した。このシステムの開発プロジェクトには民間から複数の企業が無償で参画したが、そのうちの1社がデロイト トーマツだった。同社は、2022年に防災DXの実現に不可欠な「データ連携基盤」の在り方を官民で検討することを目的に設立された「防災DX官民共創協議会」の幹部企業としてプロジェクトに参画している。同社 シニアスペシャリストリード 浜名弘明氏は、同社が支援提供に至った背景について次のように説明する。
「防災DX官民共創協議会では、2023年11月に『もし官邸で災害対策本部が設けられるような大規模災害が発生した際には、幹部企業はすぐに参集しよう』という取り決めがなされていました。その直後に能登半島地震が発生したため、弊社を含む幹部企業が集まり、無償支援を提供することになりました」
なお広域被災者データベースそのものは、米パランティア・テクノロジーズの技術者が中心となって構築。避難所の人の出入りを、交通系ICカード「Suica」を使って管理する仕組みも新たに開発した。デロイト トーマツは、これらの開発プロジェクトにおけるPMO(プログラムマネジメントオフィス)の役割を担ったほか、様々な側面支援を提供したという。