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震災から学ぶ

能登半島地震から1年、「防災テック」が果たした役割と残された課題

防災テックベンチャーCEOが振り返る

 2024年1月1日に発生した能登半島地震、その被災者支援や復興活動においては、先進技術を用いて災害の予測や対応、復興などを支援する「防災テック」が大きな役割を果たした。その価値や成果、課題点などについて、AI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」を提供する防災テックベンダーのSpecteeで代表取締役 CEOを務める村上建治郎氏に話を聞いた。

SNSの投稿情報を基に、発災直後の情報を把握

 「災害大国ニッポン」と言われて久しく、我が国は毎年のように地震や台風、大雨などさまざまな自然災害に見舞われる。そんな自然災害のリスクや被害をIT技術によって軽減・回避しようという試みが、いわゆる「防災テック」と呼ばれるソリューション領域だ。近年では数多くのスタートアップ企業がこの分野に進出しており、国内のみならず海外においても少しずつ存在感を高めつつある。

 2024年1月1日に発生した能登半島地震の被災者支援や復興活動においても、防災テックベンダーが大きな役割を演じている。そのうちの1社であるSpecteeは、災害に関する最新情報をSNSの投稿データから自動的に抽出・収集し、AIや人手によるファクトチェックを経て、信憑性の高い情報のみをユーザーにリアルタイムで提示する「Spectee Pro」というクラウドサービスを提供している企業だ。

 Spectee ProはSNS情報以外にも気象データや河川・道路の監視カメラ映像、車のプローブデータなどをリアルタイムで提供しており、これらの情報を基にユーザーが被災地の状況をいち早く把握することも可能にする。同製品は以前から石川県庁でも導入・運用されており、能登半島地震発生時の状況把握においても大きな役割を果たしたという。

 「災害が発生してからテレビなどのメディアで現地の様子が報道されるまでには、かなりのタイムラグがあります。その点SNSは、現地の様子を伝える情報が即座に投稿されるため、速報性という点では非常に優れています。Spectee Proは多くの自治体で導入されており、その多くでは大規模災害発生時には災害対策本部でSpectee Proの画面を開き、最新のSNS情報を参照しながら、現地の状況を把握する手順がマニュアル化されているそうです」

 こう語るのは、Specteeの代表取締役 CEOを務める村上建治郎氏。能登半島地震の発災当初は人命救助活動が何より最優先とされたため、「家屋倒壊」「土砂崩れ」といった人命に深く関わる震災情報が県庁では重点的にチェックされたという。

 続いて問題となったのが、交通網の麻痺だった。能登半島に通じる主な幹線道路が寸断されてしまったため、支援物資の輸送に大きな支障が生じたからだ。そこでトヨタ自動車との連携の下で収集する「プローブデータ」を基に通行可能な道路を割り出し、被災地への支援物資のスムーズな輸送に努めた。

 このとき東京都内にオフィスを構えるSpecteeの社内でも、能登半島地震の発生から約1週間は、SNSの投稿情報の急増やシステム負荷の増大に備えて、緊急体制を敷いたという。投稿情報の信ぴょう性を判断するファクトチェックチームの人員数は、平時の数人規模から増員。システム負荷の急激な増大に備えて、システムの運用監視体制も強化した。

 こうした緊急体制を敷いたこともあり、発災後もSpectee Proのシステムは安定稼働を続け、石川県庁における素早い状況把握や交通路の確保などに大きく貢献することができたという。

 なお同県庁をはじめとする自治体のユーザーだけでなく、民間企業のユーザーにも、今回の能登半島地震に際してSpectee Proによる素早い状況把握によってメリットを享受できた例もあったという。

 「とある医療系メーカーでは、サプライヤーの工場が能登地方に立地していたことから、震災が自社のビジネスに及ぼす影響をいち早く評価すべく、Specteeを使って現地の状況をリアルタイムで把握。発災からわずか2日後には詳細なレポートを役員に提出できたそうです。このように民間企業であっても、やはり平時から災害情報を素早く取得できる仕組みを用意しておくことで、有事におけるビジネスの損失を最小限に抑えることができます」(村上氏)

 能登半島地震の被災地では、現在も復興作業が各地で進められているが、この復旧・復興フェーズにおいても防災テックは役立つという。たとえば、水道インフラの復旧がなかなか進まない地域の避難所などでは、使用済みの水をその場で濾過して再使用できる装置が重宝されている。この装置はWOTA社というスタートアップ企業が開発したものだが、このような新技術を積極的に生かすことで、これまでとは異なる形での被災地復興が可能になる。

 「今後、過疎化が進むであろう地域の水道インフラを膨大な手間と時間をかけて元通りに復旧しても、その後徴収する水道料金だけでは到底コストを回収できません。そこでインフラを元に戻す代わりに、まったく新たな技術を導入することでコストを抑えながらも早期に復興を進める。そういった発想の下で防災テックをはじめとした新しい技術を積極的に取り入れることで、柔軟な地域作り・街作りが可能になりますし、被災者の方々にとってもメリットは大きいはずです」(村上氏)

次のページ
震災を通じて体感した、テクノロジーの「思わぬ落とし穴」

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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