国・地域ごとに「AIへの期待感」異なる、ダボス会議で実感
毎年1月にスイスで開催されるダボス会議。2025年のテーマは「インテリジェント時代における連携(Collaboration for the Intelligent Age)」だった。近年の急速なテクノロジー、特にAIの進化を受けてのテーマだということは言うまでもない。上野山氏もこの会議に参加した。
米国の第二次トランプ政権発足とほぼ同時期に開催され、グリーン政策の行く末などにおいても注目が集まっていた今回のダボス会議。期間中は、グローバルで重要なアジェンダを議論する様々なパネルディスカッションが行われるが、「そのうちの3~4割はAIに関するパネルだった」と上野山氏。たとえば、昨今話題になっているAIエージェント、いわゆる「行動するAI」については、この技術が“人”の仕事にどんな影響を及ぼすのか。AIエージェントの普及で助かる業種、困る業種は何か。危険性はないのかなど、技術的な話だけでなく、社会構造や国際協調の変化の中でこのトレンドをどう捉えるかという議論が至るところで行われていたという。会議には、名立たるビッグテックの代表や技術者らも参加していた。
上野山氏はイベント参加を通じて、「AIに対する捉え方が国によって大きく異なる」点に気付いたという。たとえば日本では、既に日本語対応した大規模言語モデル(LLM)が普及しつつあり、AI開発競争などにも関心が集まっているが、これは世界的に当たり前なことではない。米国に目を向けてみると、英語を母国語としない人がたくさんおり、彼ら彼女らからは「母国語に対応したLLMがまだ出てきていない」という声を聞いたという。
そんな国や言語圏に属する人々は、これまでは英語を話す一部のインテリ層しかアクセスできなかった知識を、LLMによって引き出すことができるようになるのではないかという期待を抱いているようだ。これが実現すれば、途上国や少数言語圏での教育・研究水準を向上させることが可能になるかもしれない。いわゆる“不平等の解消”の手段として、AIに期待する人々が大勢いるということだ。
また、汚職や不安定な政情が常習化しているような国では、「政府よりもAIのほうがよっぽど信用できる」といった声もあり、これも日本ではあまり出てこない議論だと上野山氏。日本ではハルシネーションなどが主な議論の焦点になっているが、これは世界的に見て極めて高度な社会が出来上がっているが故の傾向ではないかと述べた。
AI規制に早期から乗り出していたEUのルールメイキングの現場では、一気にエージェントAIに到達するような社会ではなく、「きちんと段階を踏んで人間的なものを作っていきたい」という意思が根本にあるという。この感覚は、日本とも近く共通する点が多いと上野山氏。一方、米国からはトランプ政権が規制緩和の大統領令を発表するなど、かなりプレッシャーがかかっている状況だ。
このように、AIに対する見方は立場や状況によって異なる。日本では、米国と中国という2つの巨大な資本に挟まれている市場環境や、人口減少という社会問題が迫る中でどうAIを開発するか、活用するかといった議論が展開されるが、世界を見渡せば、ほとんどの国はそもそもLLMの競争に入ることは難しいのである。
こうした多角的な視点から、世界各国のグローバルリーダーたちが立体的な議論を交わしたのが、今回のダボス会議だったと上野山氏。個人的にも学ぶことが非常に多かったと総括した。
その中で、同氏が率いるPKSHAはどのように事業を展開していくのか。ここまでの話を踏まえ、「日本の場合は『人が足りない、足りなくなる』という不可避の問題がある中で、いかにAIによって生産性と創造性を伸ばしていくかが重要なテーマになっている。これに対し、引き続きソリューションや支援を展開していく」とした。