DS経営における経営安定のための内部留保

Q3:付加価値を最大化しつつ、各ステークホルダーに還元、利益を配当に必要な最低限とした場合、利益剰余金は蓄積されないことになります。リスクや投資に備える内部留保の必要性をどう考えればいいでしょうか?
スズキ:少し誤解があるかもしれません。付加価値分配計算書を見てもらいたいのですが、順番で言えば、役員、従業員、政府、株主、それから内部留保となっていて、内部留保を適正水準で維持することはとても大切です。
日置:ANAグループのようなインフラ企業では、内部留保は大事な項目ですよね。
中堀:私たちは感染症やテロなどのイベントリスクに常にさらされていて、一定の内部留保を持っておかなければ、安定的な経営ができません。コロナ禍で2021年度と2022年度に売上高、利益ともにマイナスになりました。2023年度に好転したものの、まだ内部留保も回復途上にあり、今は厚くしたいと株主にも説明をしています。
日置:本来はそれが正しいスタンスですよね。

Q4:昔から保有する不動産を目当てにバブル期に買収されかけた経緯があり、株価に対して非常にセンシティブなところがあります。コロナ禍で赤字でも配当を続け、業績回復した現在は自社株買もかつてない規模で行なっています。このような企業が、株価下落を気にせず、DS経営を進めるのは非常に難しいと思いますが、何か他社での成功事例はありますか?
スズキ:DS経営を実践しようとしても踏み出せない。最大の懸念が「株価が下がるのではないか」です。それについての回答は大きく2つ。1つは「株価は下がっても構わない」です。買収リスクを計算しましたか。そのリスクが低いのであれば、株価が下がることを心配しても意味がありません。株価が高くなるほど、配当も増やさなくてはならない。株価は適正水準で維持する方が大事です。ただし、エクイティファイナンスの予定がある場合、その限りではありません。もう1つは、「株価は思うほどには下がらない」です。自社株買いとそれを有効利用する株式報酬制度を導入した丸一鋼管さんがどうなったか。誰も文句を言っていません。自社の経営方針を投資家に伝える。そうすれば適正な株価水準が保たれる。そう信じたいですね。
日置:DS経営を実践している立場から思うことはありますか。
中堀:ANAグループの場合、航空機を20年程度で更新しなければなりません。仮に事業規模が一定だとしても、定期的な航空機への投資が必要です。規制で外国投資家が33%超の株式を保有することはできないため、買収リスクは比較的低い。とはいえ、柔軟に資金調達のできる水準を維持しておきたいので、株価を意識した経営をせざるを得ない。それでも、短期的な株価の上げ下げは気にしないようにしています。