Amazon Web Services(AWS)は、6月10日から11日(現地時間)にかけて、米国ワシントンD.C.にて公共部門に特化した年次カンファレンス「AWS Summit Washington DC 2025」を開催。「クラウドテクノロジーによるミッションの推進」をテーマに、AIや機械学習、クラウドコンピューティングなどをキーワードに340ものブレイクアウトセッションが行われ、現地参加・オンラインあわせて延べ25,000人以上の参加登録があったという。1日目の基調講演では、政府情報機関向けデータセンター群「AWS Secret Region」の2拠点目を2025年に開設予定であること、米国内2つの州において300億ドル以上の投資を計画していることなどが発表された。

基調講演に登壇した同社 Worldwide Public Sector担当バイスプレジデントのDave Levy氏は、「クラウドや生成AI、機械学習で既に革命は起きた。今こそ、未来のための基礎を築くときである」と訴えた。同氏は、開催地のワシントンD.C.の都市計画を例に、アメリカ独立戦争後の1791年に最初の礎石が置かれたことを挙げる。当時の先駆者とカンファレンス参加者との共通点としてLevy氏は「何かを構築したいという信念がある」と指摘した。顧客の様々なアイデアを実現するために、AWSは「コンピューティング」「ストレージ」「データベース」「推論」からなるビルディングブロックという概念が基本になっていると説明。その上でLevy氏は「基礎にはセキュリティがある」とし、ハードウェアレベルからスタック全体に及んでいると強調した。同社のセキュアな基盤は370万マイルを超える光ファイバーケーブルにより、 245の国と地域を結ぶグローバルインフラストラクチャになっている。
Amazon Web Services, Inc.
Vice President of Worldwide Public Sector and Healthcare and Life Sciences North America
Dave Levy氏
続いて、Levy氏は最初のゲストとして、米国の複数の情報機関を統括する国家情報長官(DNI)のTulsi Gabbard氏をステージに招いた。Gabbard氏は、21歳でハワイ州の議員として政治家のキャリアをスタートさせ、8年間の下院議員とハワイ陸軍州兵としてイラクやクウェートへの派遣経験をもつ。同氏はそうした経験を振り返り、「適切なタイミングで提供される客観的な情報の価値、その提供メカニズムの重要性を痛感した」と話す。というのも、報告を受ける情報の多くが既に新聞やテレビニュースで報じられた内容で「意思決定者や政策立案者が情報を活用するには遅すぎる」と訴えた。そこで、諜報コミュニティ全体で、タイムリーで客観的に質の高い情報を提供することに専念し、ツールの最適化に取り組んでいるという。既に18の諜報機関でAIを活用しているとした。具体的に、10,000時間のメディアコンテンツを分析するのに8人がかりで48時間かけていた作業を、AIツールを使用することで1人が1時間で完了できるようになった事例を紹介。さらに、ケネディ元大統領の暗殺事件に関連した機密文書の公開にもAIや機械学習が用いられたとした。最後に、Gabbard氏は最後に今後の展望を語った。
「来年は建国250周年を迎えるため、憲法や独立宣言を真剣に考えるときだ。先人たちの多くが30歳未満だったことを考えると、その偉大さに気づかされる。私のリーダーシップの下では、政府が自前で技術ソリューションを構築しようとするのを止め、その代わりに外部調達に焦点を当てたい。そうすることで、より責任を負うべき分野に集中できるようになる」(Gabbard氏)
Director of National Intelligence
Tulsi Gabbard氏
医療分野でもAIを活用する動きがある。特に、米国民の40%が生涯で経験すると言われている「がん」の研究だ。医療現場では日々、膨大な検査データが生成されており、人間がすべてを把握することは容易ではない。さらに、データの安全性や患者のプライバシーなどからサイロ構造になりがちであった。総合がんセンターの一つである「メモリアル・スローン・ケタリング(MSK)」では、膨大なデータの処理にAIを活用し、患者への最適な治療法や推奨事項を提案し、最良の治療結果を実現することに取り組んでいる。最高戦略責任者(CSO)のAnaeze C. Offodile氏は、「AWSのようなテクノロジーパートナーとともに、データを安全に保護し、プライバシーを確保し、データを標準化して統合していくことが重要」と話した。
Executive Vice-President and Chief Strategy Officer, Memorial Sloan Kettering Cancer Center
Anaeze C. Offodile氏
また、世界的な教育企業であるピアソンは、Amazon BedrockをベースにAIを活用したパーソナライズされた学習ツール「Verity」を開発。提供背景として、同社 最高経営責任者(CEO)のOmar Abbosh氏は「米国人の5人に1人が基本的な読み書きに苦労している。3000万人以上が高校卒業資格を持っていない。過去5年間で数学スキルは著しく低下している。これは、これらの人々の健康と富の成果に影響を及ぼす」と説明。AIを活用するこで、学習の時間を短縮できれば、数百万ドルの価値が経済に還元されることになる、と続ける。Abbosh氏は「テクノロジーが人間のスキルよりも急速に進化する中で、労働力を育成するために不可欠なスキルを人々が身につけるのを支援していく」と語った。
Pearson PLC Chief Executive
Omar Abbosh氏
そのほかの発表は以下の通り。
- 機密ワークロード向けデータセンター群「AWS Secret Region」の拡張:2025年末までに機密分類レベルまでのワークロードをサポートするSecret Regionの認定を取得した「AWS Secret-West Region」を設立する計画を発表した。新リージョンの開設により、米国のAIリーダーシップ強化と、国防・安全保障分野におけるミッションクリティカルな業務の支援強化が期待される
- 米国の2つの州にAIインフラを構築するために300億ドルを投資する:ペンシルベニア州とノースカロライナ州にまたがるAIインフラに少なくとも300億ドルを投資する。コンピューティングシステムへの戦略的投資により、Amazonは生成AIとエージェント型AIの時代を支える技術的基盤を構築したいという
- 公共部門のAI活用を後押しする「Generative AI Impact Initiative for Public Sector」開始から1年の経過状況:AWSの生成AIサービスとインフラストラクチャを活用する公共部門を支援するために5000万ドルを投資するイニシアティブの開始から1年が経った。開始以来、約300の組織が活用。引き続き2026年6月末まで利用できる
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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