
PwC Japanグループは6月23日、同グループが実施した「生成AIに関する実態調査2025 春 5ヵ国比較」の結果について詳細を発表した。同調査は2023年の春より半年に1回行われており、今回は日本・米国の他、新たに中国・英国・ドイツを調査対象に加えたことで、世界の生成AI活用の潮流における日本の現在地が多角的に明らかにされたとしている。調査結果のハイライトと日本企業に向けた提言について、PwCコンサルティング 執行役員 パートナー 三善心平氏が説明した。
生成AIの活用効果に対する期待との差分
三善心平氏は、前回の「生成AIに関する実態調査2024 春 米国との比較」で実施した結果と今回の結果を比較した際の洞察から説明を始めた。まずは前回の生成AI活用効果に対する期待についての日米比較結果として下図を示す。

米国では約3分の1が「期待を大きく上回っている」と回答していることに対し、日本ではその割合がたった9%という結果が示されている。また日本の「やや期待を下回る」と答えた割合は17%で米国のおよそ2倍の数値となっており、三善氏は、日本では効果を出せている企業と出せていない企業が二極化しつつある傾向を前回に引き続き指摘した。
この結果を踏まえ、三善氏は今年の結果を下図に示す。「期待を大きく上回っている」と回答した日本企業の割合は10%で、前回とほぼ変化がない上に、「やや期待を下回る」と回答した割合は23%で前回より増加している。一方で米国企業は、期待を大きく上回っている」と回答した割合が45%に上ることから、三善氏は「効果の“刈り取り方”に関しては、前回よりさらに日米間で差が開いている」と指摘した。

二極化が進む日本の成功要因が明らかに
続いて、日本における生成AI活用の現況を説明した。まず生成AI活用の推進度合いについて、2023年春から2025年春にかけて大きく前進しているが、生成AIへの期待度合いは年々落ち着いてきていると指摘。生成AIについて「業界構造を根本から変革するチャンス」ないしは「他社より相対的に優位に立つチャンス」と捉える割合は減少傾向にある一方で、「自社ビジネスの効率化/高度化に資するチャンス」と捉える割合は増えているとした。

生成AIへの脅威に対する認識について、三善氏が大きな変化として示したのが、生成AIを「コンプライアンス/企業文化/風習などに脅威を及ぼすもの」と認識する人の割合が増えていること。三善氏はこの結果について「生成AIの活用が一定数進んできた結果として表れているものではないか」と推察する。

続いて、冒頭に示した生成AIの活用効果に対する期待における調査結果において、期待を上回る効果を創出する企業と、期待未満の効果しか出せない企業にはどのような差があるのか、3つの観点から分析した結果を示した。
観点1:目的意識
下図のうち、黄色い棒グラフは「生成AIの効果が期待より出ていない」と答えた企業(以下、期待未満の企業)の回答結果、赤い棒グラフは「生成AIの効果が期待を大きく上回る」と答えた企業(以下、期待を上回る企業)の回答結果を示している。これを見ると、期待未満の企業では、そもそも生成AIを大きな変革のチャンスだと捉えている割合が少なく、「自社ビジネスの効率化/高度化に資するチャンス」と捉えている割合が高いことが見て取れる。一方、期待を上回る企業では、生成AIを「業界構造を根本から変革するチャンス」と捉えている割合が55%に上り、期待未満より40ポイントほど高いことが示されている。三善氏はこれを踏まえ「生成AIという技術をどう捉えているかによって効果に差が出ていることが分かる」と分析した。

観点2:推進体制
また推進体制について分析した結果として下図が示された。期待を上回る企業では、61%が生成AIを「社長直轄」で推進していると回答した一方、期待未満の企業では8%にとどまるとした。

推進体制に関連して、CAIOの配置によっても差が見られたという。期待を上回る企業では60%の割合でCAIOが配置されていた一方、期待未満の企業では、11%にとどまっているという結果が示された。
観点3:業務プロセス
三善氏は、業務プロセスに生成AIを組み込んでいるかによっても差異が見られたとして下図を提示。期待を上回る企業では、生成AIを「業務プロセスの一部として正式に組み込んでいる」と回答した割合が72%に上ることに対し、期待未満の企業はたった14%という結果に。「期待を大きく上回る効果を出すためには、生成AIを業務プロセスに組み込まれた状態で業務が回り続けている状態にもっていくことが重要だと推察される」とした。

そして、期待を上回る企業および期待未満の企業それぞれに、その結果を導いた要因について調査し内容をまとめた結果が下図に示されている。これを見ると、期待を上回る企業が成功要因として挙げる一番の理由が「ユースケース設定(58%)」、次いで「データ品質(14%)」という結果になっている。対して、期待未満の企業が失敗要因として挙げる理由の1位が「データ品質(32%)」、次いで「ユースケース設定(23%)」であった。
また、期待未満の企業は「開発/利用環境、利活用フロー整備」や「社員のAIリテラシー」を成果の理由として上位に捉える傾向にあり、期待を上回る企業では「生成AIガバナンスの整備」や「新技術の社内受容度」を成果の理由として上位に捉える傾向にあることが示された。

続いて三善氏は、ここまでの日本単独の調査結果を踏まえ、5ヵ国を比較した結果に話題を移した。調査結果では、日本が内向き意識のもと効果の創出に後れを取っていることが示唆される結果になったとしている。
この記事は参考になりましたか?
- 関連リンク
- EnterpriseZine Press連載記事一覧
-
- 5ヵ国比較で見えた日本の“生成AI活用後れ”と3つの対策:効果を期待以上に出すためには──...
- 「2027年問題」は乗り越えられるか──BeeX 広木社長が語るSAP移行の現実解
- 待ったなしの中堅中小DXを救う強力な処方箋:地域中核企業が主治医を担う「ネットワーク型支援...
- この記事の著者
-
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア