「ただの情シス」脱却へ NRI ITリーダーが示す、社内外共創をかなえるデジタルワークプレイスの未来
導入したSaaSを“真の意味”で使いこなしてもらうためのアプローチ
AI活用も視野に入れたプラットフォーム構築の軌跡
村田氏は、共創ワークスペースの構築における最初のステップを以下のように説明する。
「まずベースにあるのがITインフラの高度化です。ITインフラにゼロトラストセキュリティの概念を取り入れ、安全な環境を作る。具体的にはID管理、端末、ネットなどの対策を講じて、サイバーセキュリティの高度化を図ってきました」(村田氏)
次のステップはワークスペースの高度化だ。ここでは多種多様な人材や企業とのコラボレーション(メール、チャット、ファイル共有など)と企業内の業務(人事や経理など)をより効率的に推進できる仕組みを各種SaaSで構成している。
ワークスペースにおいてSaaSの活用が進んでいくと、様々なデータがSaaSに蓄積されるようになる。量やサイズでいえばクラウドストレージが最も多くなるが、コラボレーションを通じて蓄積される情報やノウハウは多岐にわたる。
こうして蓄積されたデータはデジタル資産だ。共創ワークスペースでは、コラボレーションを通じて獲得した情報やノウハウをさらに活用していくことが求められる。これを実現するためには、適切に保護された状態でデータを集約して蓄積していくことが欠かせない。
デジタル資産の中でもNRIが特に注目しているのが、業務ノウハウやベンダーの情報など従業員のスキルアップにつながるもの、業務プロセスデータ(勤務時間や勤務場所など)や健康データなどワークログとなるものだ。これらは人的資本を最大化するにあたって活用が欠かせないデータである。

[画像クリックで拡大します]
また“共創”の対象は国内拠点のみならず、海外拠点やグループ企業、さらにパートナー企業や顧客なども視野に入れている。「かつて採用していたデジタルワークプレイスの概念では、プラットフォームを社員のための利便性を高めるものと位置づけていました。しかし、現在の仕事は社員だけで閉じることはほぼないため、より範囲を広げて“共創”というキーワードで表現しています」と村田氏は話す。
共創ワークスペースの現在地について村田氏は「共創ワークスペースのコンセプトであるインフラの高度化、ワークスペースの高度化、デジタル資産の活用、人的資本の最大化という実現したい4つの流れは一通り完成しています。今はコンセプトに基づいて範囲や機能を拡張しているところです。デジタル資産からデータを収集してAIの活用につなげたり、人的資本を最大化するための施策を考えたりしていますが、色々な形がありますし、SaaSもいろいろ出てきています。それぞれに最適な形を検討して実装していくフェーズですね」と話す。
共創ワークスペースのプラットフォームで全従業員が共通して利用するSaaSは、IT戦略部が検証や評価を行い、導入している。製品をどのように選んでいるのか、選定の基準について聞くと、「ヘッドクオーターの技術者とつながれるかどうか」に着目していると村田氏。「これはシステムの運用中に何らかのトラブルが起きた際、いかに早く対応してもらえるかに関わってくると思います。製品側の技術者とスピード感をもって連携が取れることは重視していますね。どれほど製品の機能が優れていても、サービスが止まってしまったら元も子もないので、運用保守の段階でサポートがしっかり受けられるかはチェックするようにしています」と話す。
もう1つ、村田氏は「そのSaaSベンダーが日本市場をどう見ているか」も気にしているという。
「そのベンダーは日本のニーズを本気で受け入れようとしているのか。日本を重要な市場として見ているのか、それともアジア諸国の売上の1つのパーツに過ぎないと見ているのかも重要なポイントだと考えています」(村田氏)

この記事は参考になりましたか?
- IT部門から“組織変革”を~気鋭のトップランナーを訪ねる~連載記事一覧
-
- 「ただの情シス」脱却へ NRI ITリーダーが示す、社内外共創をかなえるデジタルワークプレ...
- 社内一“前向きな部署”はシステム障害の専任部隊?2日半業務が止まった過去を原動力に変えた損...
- ベンダーはともに戦う仲間──明電舎DX推進リーダーが「ONE MEIDEN」で挑む“業務改...
- この記事の著者
-
加山 恵美(カヤマ エミ)
EnterpriseZine/Security Online キュレーターフリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Online の取材・記事も担当しています。Webサイト:https://emiekayama.net
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア