幕を閉じた大阪・関西万博、フランスパビリオン成功の舞台裏を支えた「バーチャルツイン」技術とは?
このテクノロジーが「宇宙開発」の鍵を握る? “New Space時代”に必須の仮想シミュレーション

仏Dassault Systemes(以下、ダッソー)が、宇宙領域への取り組みを加速させている。同社は2025年9月10日、大阪府で行われた自社イベント「3DEXPERIENCE Conference Japan 2025」に合わせ、大阪・関西万博のフランスパビリオン内で、航空宇宙業界に特化したイベントを開催した。同社CEO(最高経営責任者)のPascal Daloz(パスカル・ダロズ)氏は、「航空分野で確立したバーチャルツイン活用を、宇宙開発にも拡大していく」と訴求した。
フランスパビリオン成功の鍵、実証した「バーチャルツイン」の有用性
同イベントは、宇宙ビジネスを手掛ける日本企業を対象に開催された。フランスパビリオンが会場に選ばれたのは、同パビリオンの設計・建設にダッソーの中核技術「3DEXPERIENCEプラットフォーム」と「3D UNIVERSES(以下、3Dユニバース)」が活用されたためだ。
3DEXPERIENCEプラットフォームは、設計(CAD/CAE:コンピュータ支援設計・解析)から製造(PLM:製品ライフサイクル管理)、さらにはサプライチェーンまでを一貫して管理できる統合基盤である。一方、3Dユニバースとは、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で展開される新たなAI活用サービス群を指す。生成AIやコンパニオン(仮想アシスタント)機能を組み込み、企業内の3Dデータやバーチャルツイン、PLM情報といった知的資産を仮想空間で再現・統合する。これにより、設計や製造プロセスにとどまらず、経営資源の最適配置や組織運営の効率化、新規ビジネスモデルの検討にも活用できる仕組みとなっている。
フランスパビリオンの総監督を務めるJacques Maire(ジャック・メール)氏は、「フランスパビリオンには5ヵ月間で累計380万人超が来場した。(中略)我々は設計段階から、1時間あたり3000人を受け入れるキャパシティを目標とし、それを実現した」と述べ、来場者動線の最適化におけるダッソー技術の効果を強調した。
通常、パビリオンの建築ではデザインやテーマ性が重視される。しかしフランスパビリオンでは、最優先課題を「来場者の動線管理」に置いた。3DEXPERIENCEによるバーチャル空間シミュレーションで人流や滞留時間を事前に検証し、その結果、来場者の自由な流れ(Free flow)を維持しつつ、混雑の最小化を実現。大量の来場者を効率的に受け入れる仕組みを構築できた。
建設段階では、「実物大のバーチャルツインが威力を発揮した」とメール氏。建築家やアーティスト、コミュニケーション担当者が、工事前に1:1スケールの仮想パビリオンを歩き回り、来場者の体験をシミュレーションしたのだという。
「従来の設計図や縮尺模型では把握できない『空間感覚』を関係者全員が事前に共有できたことで、展示配置や動線を細部まで確認・調整することが可能になった。その結果、現場での手戻りや設計変更を最小限に抑えられた。実物と同じサイズの仮想空間で事前検証できたことが、フランスパビリオン成功の鍵だったといえる」(メール氏)
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鈴木恭子(スズキキョウコ)
ITジャーナリスト。
週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ。当面の目標はOWSイベントで泳ぐこと。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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