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このテクノロジーが「宇宙開発」の鍵を握る? “New Space時代”に必須の仮想シミュレーション
“New Space時代”で宇宙開発に構造変化が
フランスパビリオンの事例が示すように、「工期に厳しい制限があり」「複数のステークホルダーが関与し」「現場での実証が困難」な環境では、事前の仮想空間シミュレーションが威力を発揮する。この特性が最も求められる分野が“宇宙開発”なのだ。ダッソーで航空宇宙・防衛産業担当バイス・プレジデントを務めるDavid Ziegler(デビッド・ジグラー)氏は、「宇宙開発のように複雑性が極めて高い産業では、3Dユニバースのような仕組みが必須になる」と指摘する。
ジグラー氏は、航空宇宙産業が直面している課題として以下を挙げる。
- ロケット需要の急増
- 脱炭素化にともなう電動化・水素化への技術転換
- サプライチェーンの複雑化と品質保証
特に近年は「New Space時代」と呼ばれるように、新規参入による急速な技術革新と、それにともなう生産体制の見直しが顕著となっている。Elon Musk(イーロン・マスク)氏率いるSpaceXはその象徴的な例だ。同社は、世界のロケット打ち上げ市場で急速にシェアを拡大している。また、Starlink衛星の大量投入で、衛星コンステレーション(数千基規模の小型衛星を群として運用する方式)分野でも圧倒的な存在感を示している。結果として、ロケット需要に対し供給能力が追いついていない。「新型機の納入に7年以上を要するケースも出てきており、従来型の開発体制では対応できない状況に陥っている」とジグラー氏は語る。
こうした産業構造の変化により、衛星開発は従来の数基単位から、数千基規模のコンステレーションを前提とする時代へと移行している。当然、数千基もの衛星を実際に軌道に投入してから不具合を発見するようなことは許されない。とはいえ、すべてを物理的にテストすることは現実的に不可能であり、従来の「作ってから試す」開発手法は限界に達している。したがって今後は、設計から運用に至るすべての工程を、事前に仮想空間でシミュレーションすることが不可欠となる。
その制約が最も顕著に現れるのが火星探査だ。地球との往復だけで2年以上を要するため、現地での補給や修理は不可能である。「火星探査は極端な制約条件を持つプロジェクトだ。現地で試行錯誤する余地はなく、すべてを事前に仮想空間で検証しなければならない」とジグラー氏は説明する。火星の重力、温度、大気、放射線環境といった条件をどこまで精緻に再現できるかが成否を分ける。こうした背景から、宇宙開発では緻密な事前シミュレーションができる基盤の存在が必要なのだという。
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鈴木恭子(スズキキョウコ)
ITジャーナリスト。
週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ。当面の目標はOWSイベントで泳ぐこと。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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