日本企業のSIer依存に潜むAI活用の落とし穴──Databricksの「データ+AI」戦略に迫る
年次イベント「Data+AI Summit 2025」で見えた“オープン性”へのこだわりと覚悟

米国時間6月9日から12日にかけて行われたDatabricksの年次イベント「Data+AI Summit 2025」には多くの参加者が訪れ、大盛況のうちに幕を閉じた。基調講演では様々な発表がなされたが、どの発表も一貫して、イベント名にもある「データとAI」にフォーカスされたものであった。今回は、発表された数々の新機能を踏まえ、各キーマンへのインタビューから見えてきた同社の戦略を改めて振り返る。
AI活用の成功パターンを具体化:「Agent Bricks」の真価
1日目の基調講演におけるハイライトの一つとして、ビジネスに最適化された高性能なAIエージェントを自動作成する「Agent Bricks」の発表が挙げられる。DatabricksでチーフAIサイエンティストを務めるJonathan Frankle氏は、「複数の顧客のAI活用を支援する中で、解決すべき問題や成功のパターンが見えてきた。Agent Bricksは、このパターンをソリューション化したものだ」と説明する。
たとえば、AIの活用を成功に導くためには、アプリケーションの構築よりも「評価(エバリュエーション)」「信頼性(リライアビリティ)」「測定(メジャーメント)」の3つが最初の一歩として重要だという。これは、単なる「AIが動くデモ」を作るフェーズから、「企業活動に組み込まれ、持続的に価値を生む“AIエンジニアリング”」のフェーズへ移行する上で、不可欠な要素であると強調する。
Frankle氏は、この点を建築にたとえて説明した。
「橋を建設する際、単に部材を組み立てるだけでなく、橋がどれだけの負荷に耐えられるかの考慮、天候や地震への対策など、あらゆる測定(メジャーメント)を慎重に行った上で、信頼性の高い素材を選んで建設に入るでしょう。AIエージェントの開発もこれと同様で、初期の段階で性能や信頼性を測定・評価する必要があります。これを行わなければ、結果としてすぐに“壊れてしまう”エージェントしか作れません」(Frankle氏)

このような課題を背景に生み出されたAgent Bricksは、3つの大きな特徴があるという。
まず前述のように、構築よりも評価と測定を重視する設計思想「リライアビリティ・ファースト(信頼性第一)」のもと設計されていることが、大きな特徴の一つだ。これによって、Agent Bricksは本番環境で求められる高精度で低コストなエージェントの自動最適化を支援する仕組みとして機能する。
また2つ目の特徴として、「Databricks Lakehouse Platform」と統合されている点が挙げられる。企業内の基幹データや、今回発表されているアプリケーション構築のためのオペレーショナルデータベースにおける新しいカテゴリー「Lakebase」とも連携し、高速かつガバナンスの効いたデータ上でAIエージェントを動かせる環境を整えられるという。Lakebaseは、既存のデータベースアーキテクチャよりもAI時代に求められる速度に対応できるよう設計されているとFrankle氏は述べる。
3つ目の特徴は「カスタマーインサイト」を積極的に取り入れている点だ。顧客との協働を通じて得られた知見に基づいて設計されており、企業のリアルなニーズに応えられるという。
AIガバナンスの基盤「Unity Catalog」とオープン性の追求
AIエージェントが企業の機密データや基幹システムを扱うようになるにつれて、ガバナンスの重要性も飛躍的に高まっている。Frankle氏は、この課題に対するDatabricksの解として、今回複数の機能強化を発表した「Unity Catalog」を挙げる。
Unity Catalogは、人間が扱うデータと同様に、AIエージェントが扱うデータ、モデル、リネージ(データの出所と流れ)、アクセス権限を一元的に管理するためのツールだ。Frankle氏はUnity Catalogを「人間をガバナンスするのと同じように、エージェントのガバナンスをするものだ」と説明する。
Unity Catalogの大きな特徴は、オープンソースとしての性質にある。Databricksのプラットフォーム内で管理しているデータだけでなく、外部のクラウドサービスやリソースと連携してAIエージェントを作成する場合でも対応可能な形で設計されているという。これにより、企業はクラウド、データ形式、データプラットフォームを超えて統一されたガバナンスを確立できるとした。
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