キリンはAI時代を「データメッシュ」で戦う──独自生成AIの活用拡大で新たに挑むマネジメントの現在地
「今が組織変革の最大のチャンス」AI活用を起点にデータの“当事者意識”向上を狙う
現場にオーナーの意識を持ってもらえない……データ品質管理における課題
一般的に、生成AIの回答精度はデータの品質に大きく依存する。そのためキリンでは、データの鮮度や正確性を維持・向上させるための組織体制として、ビジネス部門が主体となる「データオーナー」の考え方を採用しているという。
しかし、現状のデータガバナンスの課題として「現場でデータを管理している人たちの中には、あまりデータオーナーの認識を持っていない人もいる」と、キリンビジネスシステム(以下、KBS) 品質管理統轄部 データマネジメントオフィス 担当部長の渡辺浩子氏は明かす。
現場のデータオーナーとしての意識の低さは、AI活用に向けて積極的にデータを利用していくうえで、障壁となりかねない。そのため、DM側ではデータオーナーの役割や定義、ルール策定を現在進行形で検討しているという。
たとえば、従来キリンで求められていたデータ品質は、あくまでも「業務を回すために必要なレベル」と定義されていた。しかし、AI活用が進めば用途によって求められる品質レベルは変わってくるであろう。同社のデータオーナーの考えに則れば、より高い品質のデータを活用したい場合は、データを利用する側が価値と品質向上にかかるコストなどを考慮し、品質向上の取り組みに貢献する必要がある。このアプローチは、データ活用ニーズに応じてケース・バイ・ケースで判断することが重要だ。
システム面でのデータ品質管理に焦点を当てると、KBSが管理しているシステムで新しくデータベースを構築する際は、DM組織がコンサルティングに近い立場で支援に入る。「将来的にシステム間連携や活用が見込まれる場合はデータ定義を詳細に記述してもらい、反対に重要度の低いデータの場合は必要最低限の定義を書いてもらうなど、目的に応じてガバナンスを効かせた運用を行っている」と渡辺氏は述べる。
また、BuddyAIを大規模展開するにあたり、AIの利用を前提とした“新たなデータガバナンス”の必要性も高まっている。AIはデータに対して得意な形式・苦手な形式があるため、その違いを意識してデータを整備する必要がある。特に、個人情報やセキュリティ面での統制は重視していくとのことだ。
また、「現在は生成AIの浸透により、データカタログによるMDM(マスターデータマネジメント)やメタデータ管理への関心が高まっている」と石浦氏は指摘する。
現在キリンでは共通マスタとして、Excelをベースとしたメタデータ管理を行っている。このマスタは、主にIT部門がシステム開発や運用で利用するためのものだ。ここに含まれる情報は、データの種類や粒度など、ITシステムのための内容が中心となっている。
一方でAIの活用で重要となるのが、「ビジネスメタデータ」だ。これはAIでのデータ活用において、重要性が強く指摘されている。しかし、現場で業務を行っている人間にとっては「知っていて当たり前」の情報でもあり、なかなか手間をかけて入力してもらえない。AIは業務を進めるうえでの暗黙知的な情報は理解できないため、AIの回答精度を高めるにはビジネスメタデータをしっかりと整備する必要がある。
「現在、ビジネスメタデータを整備していくことが、新しいデータガバナンス設計において重視されています。メタデータ管理のための専用ツールなどは、来年以降の導入に向け検討を進めている段階です」(石浦氏)
また、バックオフィス系の業務部門では、「Microsoft Purview」や「Databricks」「Snowflake」といったソリューションを適宜選択し、トライアル的にドメイン基盤を構築し始めている。ここでももちろん、データメッシュのアプローチを取り入れるという。
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- この記事の著者
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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