「ルール」ではなく「状況」を読む 業界知識を活かすアプローチ
InforがIndustry AI Agentsをリリースした背景には、「既存のAIは業務の文脈を理解していないが、AI導入を急ぐ企業はその事実を理解していない」という問題意識がある。
サミュエルソン氏は「汎用的なLLM(Large Language Model)だけでは、業界固有の例外処理、取引慣行、規制対応といった“暗黙の前提”に対処できない。さらに業務プロセス全体に関わるAIの場合、個人や部門単位の試行導入では、企業全体の統制や継続改善のループが回らないという課題がある」と指摘した。
また、同社のCTO(最高技術責任者)を務めるソーマ・ソマスンダラム(Soma Somasundaram)氏も 「汎用的なLLMでは限界がある。企業が導入するAIで重要なことは、業界ごとの『標準』と『例外』をAIが理解していることだ」とし、以下のように説明する。

「たとえば『請求処理』を考えてほしい。食品業界では、原材料の受け入れ量は季節や天候、液体原料の蒸発、測定機器の誤差などによって実際の受入量が変動するため、発注量とズレが生じる。そのため一定の許容差を設け、受け入れ方と課金調整が運用上の要諦だ。一方、自動車OEMでは、在庫が一定の閾値を下回るとシステムが自動的にEDI(電子データ交換)で発注を行い、納品遅延に応じてペナルティや課金ロジックを厳密に適用する。さらにファッション業界では、極東のサプライヤーからの海上輸送には数週間を要するため、検品を待たずにファクタリングを使って支払いを先行し、後に数量差などを精算するという取引慣行がある。同じ請求処理でも、判断ロジックは三者三様だ」(ソマスンダラム氏)

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Industry AI Agentsは、こうした業界ごとの“正解”を前提に設計されているとソマスンダラム氏は説明する。さらに、定義されたルールを巧みにすり抜けるような取引パターンも検知できるという。
たとえば、従来のERPで「許容差3%以内なら自動承認」というルールを設定すると、“賢いサプライヤー”は常に2.95%の過大請求を繰り返す。しかし、Industry AI Agentsは過去データから「このサプライヤーは一貫して上限ギリギリで請求する」パターンを検知し、例外として人間に判断を委ねるフローになる。ソマスンダラム氏は「これが『ルールに従うシステム』と『状況を読むシステム』の違いだ」と力説した。
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鈴木恭子(スズキキョウコ)
ITジャーナリスト。
週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ。当面の目標はOWSイベントで泳ぐこと。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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