暗黙知を形式知に変換し、技能承継と人材不足に応える
Inforは今回、自社のAI戦略が日本を含む多様な産業構造にも適用可能だと強調した。日本の製造・流通業に見られる「標準化と現場の多様性の両立」という課題は、マイクロバーティカル設計を前提とするIndustry CloudSuiteの設計思想と整合するというのが同社の主張だ。
特に日本の製造業では、業務プロセスをカスタマイズする傾向が強い。こうした状況に対してサミュエルソン氏は「各産業の特性を前提に設計されたテンプレートを活用することで、標準化を維持しつつ、柔軟に運用できる」と訴える。
また、Explainable AI(説明可能なAI)を中核に据えたアプローチも、日本企業にとって重要な意味を持つと同氏は語る。
「AIが業務構造を理解し、判断の根拠を可視化することで、熟練者の暗黙知を形式知として共有できるようになる。これにより経験に依存した判断が減り、人材不足や技能承継といった課題への対処が期待できる」(サミュエルソン氏)
実際に米State Electric Supply社では、AIがプロセス上の課題を自動特定し、改善チームが原因を把握するまでの時間を数週間から1~2日程度に短縮。改善サイクルを大幅に加速させたという。
ただし、日本市場への適用には留意点もある。商習慣や会計実務の違いなど、個別検証が必要な領域は依然として残る。また、Inforが重点を置く8業界以外では、提供価値が限定的になる可能性もあるだろう。
それでも同社が示した「AIに業界知識を持たせ、業務の一部として機能させる」という原則は、生成AIへの投資成果を確実にする実践的なアプローチだ。今回のイベントは、AIを単なる支援ツールから企業の中核機能へと進化させるという、Inforの方向性を明確に示す場となった。
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鈴木恭子(スズキキョウコ)
ITジャーナリスト。
週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ。当面の目標はOWSイベントで泳ぐこと。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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