人材育成ブームの終焉、あれから金融業界のDXはどれほど進んだ?
──「DX」が日本企業のバズワードとなった頃から数年が経ちますが、金融業界におけるDX推進の現況はいかがでしょう。
岸氏:私の感覚では、2019年からコロナ禍までは「よくわからないけど、DXをやると何かが良くなるんでしょう」くらいの解像度の方が大半だった印象です。
しかしその後、「デジタル人材がいなければどうにもならない」という課題感だけが先行して金融機関に広がりました。前提として何をしたいのか、何を目指すのかが決まっていないまま、まずは人材を育てようと教育ブームに突入したんです。

コロナ禍が明けてから2年くらいは、教育の中身はeラーニングや、ITパスポートなどの資格系が中心でしたね。しかし、「それだけで基礎知識は身につくが、さらに実践力を身につける必要がある」という雰囲気が次第に漂ってきました。このあたりから、本当にデジタル化やDXに経営レベルで挑んでいった金融機関と、そうでない金融機関とで分かれていった印象です。
メガバンクは、デジタル化もDXもやるし、新規事業もやる。スマホアプリも作る。一方、地域の金融機関は、既存の業務を少しレベルアップするようなデジタル化に取り組みますが、それ以上はあまり広がらないというパターンが多いです。リソース面で事情がまったく異なりますから、仕方のないことではあります。
現在、デジタル人材育成は、進んだ企業では「実践力養成フェーズ」に移ったと思います。新しいフェーズに移ったところと、「基礎力養成フェーズ」のままのところがあるのではないかと。金融IT協会で様々な金融機関のお話を聞くと、まだ、基礎力養成フェーズにも到達していないところはたくさんあります。それはなぜかというと、経営層があまり腹落ちしていない感があって……。担当者は他社やコミュニティから刺激を受けてやろうとするんですが、経営側がそれほど熱心ではないという話は耳にすることがあります。
岡田氏:ただ地域性によっては、DXの遅れは別に悪いことではないケースもあります。地方のビジネスモデルは取引先を半ば寡占状態にあるので、ある程度古い方法でもビジネスは成り立っているんです。東京など大都市圏のマーケットほどデジタル技術が必要ないことも珍しくありません。ですから、ある程度上手くいった技術だけを金融IT協会の成功ユースケースで共有し、それだけやってみるというのも悪くないと思っています。
金融IT協会では、成功事例を勉強会で共有していますが、メガバンクや大手の保険会社と同じように地域の金融機関が取り組むのは難しいです。そのため、ビジネスモデルや予算に照らして、良いところをどう取り入れるかということを重んじています。
山口氏:想像に容易いとは思いますが、進んでいる金融機関とそうでない金融機関には相当な幅があります。特に、共同組織金融機関や信用金庫、信用組合などの小規模な金融機関はどうしても遅れがちで、かなりの業務を紙で行っています。そこにいきなり先進的な話を持ち込んで適用しようとするのは、あまりにも寄り添えてないですよね。
岡田氏:ただ、地方の小さな金融機関でも良い事例は出てきています。自らAWSのサーバーを立ち上げて、AIでデータ分析をしているという事例もあります。そこの周辺システムでは、クラウドサーバーの設定や、Pythonを使ったデータ分析を、総合職の行員が自らやっていたりします。
──なぜそういったことができているのでしょう。
岡田氏:成功している金融機関に共通しているのは、やはり部長や経営層の中に、挑戦的に「やってみろ」と言ってくださる方がいらっしゃる点ですね。あとは、デジタル関連の担当者が部長クラスにいらっしゃるところとか。
ただし、そもそもどの金融機関にも、かなり高い人材のポテンシャルが備わっているということは、皆さんもっと自信を持っていいんじゃないかと。それこそ地方銀行だって、都会やグローバルの一流企業で活躍できるけれど地元が好きで残っているような人たちがたくさんいる世界です。ですから、ゴールが決まって裁量が与えられると一気に進むことが多いです。
岸氏:私も最近、ある信用金庫の研修をオンラインでやったのですが、とても優秀な方が多いと感じました。真面目で地頭が良く、しかも地域の繁栄に貢献しようという愛着がある。おそらく、新しいことを教わったり、知ったりすれば、すぐに色々なことができるようになるだろうと思っています。
岡田氏:組織の中で、上が「やれ」と言わないからできていない、という金融機関は多いかもしれませんね。
岸氏:私もそう思います。また、金融機関のようなヒエラルキーの世界では、良いケースが内部にないパターンが多いので、横、すなわち外部から持ってくるのを推奨しています。それが「越境」です。金融IT協会の中で成功ケースを共有して持ち帰っていただき、自分の組織で上司に「やってみていいですか」とトライしてみる。良い上司であれば半信半疑であれ、まずは「やってみなさい」となります。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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