金融業界横断でIT・DX課題を乗り越える──発足から1年過ぎた金融IT協会が190社超コミュニティに
「ITの世界は競争領域だけではない」 理事長・副理事長が振り返る、1年の成果と今後の注力領域

縦割りの文化が色濃く残る金融業界。しかし、そんな業界内で企業や業種の垣根を越えた知見の共有と、人材育成の“ハブ”としての役割を担うべく、2024年1月より特定非営利活動法人「金融IT協会」が始動している。設立後1年あまりで、すでに190社以上の企業が加盟し、多くの期待を集めている同協会の取り組みや今後の展望などについて、理事長を務める山口省蔵氏と、副理事長の岡田拓郎氏に話を伺った。
金融業界を横断した“場”を提供する
金融業界におけるIT利活用の促進を目的に、2024年1月に設立された金融IT協会。設立からわずか1年あまりで190社以上の会員企業を集めるなど、金融業界において大きな注目を集めている。
同協会は、日本アイ・ビー・エムのOBが中心となって2011年に設立された特定非営利活動法人「金融ITたくみs」を前身とする。金融ITたくみsは、金融機関が抱えるレガシーシステムの技術継承にまつわる課題解決を目指して設立された組織で、「技術者から技術者へのノウハウ承継」を主なミッションとしていた。理事長の死去にともない、いったんは組織を解散する方針が決まったが、当時理事を務めていた日本銀行OBの山口省蔵氏が新たなミッションを掲げ、想いを共にする有志を集めて「金融IT協会」として再始動させたという。
「今や金融業界は、誰もがITを利活用しなければいけない時代を迎えています。そのため、前身の『エキスパート(匠)からエキスパートへ』ではなく、『ジェネラルからジェネラルへ』という理念がふさわしいと考えました」(山口氏)

山口省蔵氏
この理念の転換にともない、組織名称も“エキスパート(匠)”のための組織という意味を込めた「金融ITたくみs」から、より一般的に馴染みやすい「金融IT協会」へと変更。体制も刷新し、大手金融機関で情報システム部門の役員や部長などを務める人材を理事として迎え入れるなど、業界全体を巻き込んだ活動基盤の構築を進めている。
組織のミッションも「技術者から技術者へのノウハウ承継」から、技術者以外の人々を含む「デジタル人材の育成」と「ITの民主化」へと範囲を大きく広げ、金融業界で働くすべての人々を対象としたコミュニティ作りを目指しているとのことだ。
また、山口氏の呼びかけに賛同して共に同協会の立ち上げに奔走し、現在は副理事長を務めるのが、金融データ活用推進協会(FDUA)で代表理事も務める岡田拓郎氏だ。同氏は金融IT協会の存在意義について、次のように述べた。
「金融業界は縦割りの文化がとても色濃く残っており、皆さん社内の人とはよく話すのですが、社外の同業者たちと交流する機会はほとんどないのです。そのため、これまで自身が抱える課題や悩みを外部の人に相談する場がほとんどありませんでした。そこで金融IT協会は、個別企業の垣根を越えて課題や解決策を共有できる『コミュニティ』としての場を提供していきたいと考えています」(岡田氏)
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- この記事の著者
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティ、AI、データ関連技術やルールメイキング動向のほか、それらを活用した業務・ビジネスモデル変革に携わる方に向けた情報を発信します。
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