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生成AI時代に“技術特化人材”は不要? 事業とITをつなぐ「CoE型人材」を育成する3のメソッド

第9回:AIに代替できないIT部門になるために

CoE型人材をどのように育てるか:具体的な3のメソッド

 では、昨今AIエージェントの登場などによってますます盛り上がりを見せるAI活用において、CoE型人材がどのような役割を担うのか考えてみます。それは単にAIを使える人ではなく、AIを活かして顧客理解から企画、システム開発までを一気通貫で動かせる人です。

 たとえばECサイトの担当者が「顧客のリピート率が下がっている」ことに気づいたとします。改善するためにAIで購買データを分析し、利用頻度が落ちる顧客層を特定し、再購入を促すクーポン配信の仕組みを試作。プロトタイプ画面を作成し、マーケティング部門やシステム開発担当と議論しながら短期間で実装まで進めます。これこそがCoE型人材が担う役割です。

 CoE型人材を育てるためには、まず「顧客を理解する」という文化を徹底的に身に付けてもらうことが必要です。AIを使えば、事業部門の担当者が自ら画面改善案を試作し、開発担当者とすぐに共有できます。顧客起点で課題を定義し、AIを活用して素早く検証・改善する経験を重ねることが、CoE型人材育成の第一歩です。

 加えて、CoE型人材育成には、知識やスキルの研修だけでなく、現場で「考え、形にし、動く」経験を積める仕組みを組織として整えることが欠かせません。3つの具体的なメソッドを紹介します。

1. 顧客理解を起点に課題を自ら発見できる環境をつくる

 顧客の行動や声を直接観察し、課題を見つけ出せるような場を整えます。現場の営業・企画担当が顧客アンケートや利用履歴をもとに、自ら気づきや仮説を立てる。この「顧客理解から考える力」を磨くことで、指示待ちではなく、課題を起点に動ける人材が育ちます。

2. AIを活用して構想をすぐに形にできる場を設ける

 アイデアを頭の中で終わらせず、AIを使って短期間で試作品や画面モックを作り、関係者と共有できる環境を整えることが必要です。実際に形を見せながら議論することで、構想が具体化し、意思決定が速くなります。

3. 協働するプロジェクトを増やす

 事業・企画・システムといった異なる職種の人材がともに顧客課題を起点に検討し、AIを活用して解決策を形にするプロジェクトを増やすことが大切です。現場での協働を通じて、事業担当は技術の可能性を理解し、システム担当は顧客のリアルな課題を学ぶ。こうした相互理解が進むことで、組織全体に「考えて動く」文化が根づきます。

住友生命の取り組み

 筆者の所属する住友生命保険でも、CoE型人材育成の取り組みを進めています。特に顧客が直接使うようなサービスのシステムでは、事業部門が要件を出し、システム部門が実装する分業型の開発ではなかなかスピードが出ず、変化への対応が遅れてしまうため、事業とシステムの混成チームによる共創体制へと段階的に移行しています。

 その推進組織として、CoE的な機能を強化しています。事業部門とシステム部門の協働を支援し、AI活用事例の共有・標準化・展開を担う仕組みとして、現場の実践と学びをつなぐ役割を果たしています。

 たとえば顧客が使うアプリケーション開発では、事業担当がAIで顧客シーンを想定した画面案を作り、システム開発チームが短期間で改善を繰り返します。これにより、事業側には「構想を形にする力」が、システム側には「顧客体験を意識して設計する発想力」が育っていくのです。

 また、IT部門にはビジネススキルやAI活用研修を、事業部門にはデータ・DX基礎研修を実施し、両者が共通言語で議論できる環境づくりも進めています。こうした段階的な取り組みを通じて、構想力と実装力を兼ね備えたCoE型人材の育成を進めているところです。

まとめ

 生成AI時代の人材育成とは、単にAIツールの操作方法を学ぶことではありません。重要なのは、顧客を深く理解し、そこから事業を構想し、それを技術で実現できるCoE型人材を育てることです。

 事業担当とシステム開発担当が学び合う混成チームで、AIを活用して構想から実装までのプロセスを高速化し、そして職種の壁を越えた実践的な学びを組織として仕組み化していくことが必要です。

 その司令塔として、CoE的役割を果たす組織と人材を設ける。生成AI活用の知見を蓄積・再利用し、全社に展開することがカギとなります。CoEが学びと実践の循環を支えることで、企業全体の進化速度が格段に上がるでしょう。

 生成AIは、人を代替するための技術ではなく、人の想像力を拡張し、可能性を広げるための道具です。AIと対話しながら顧客価値を創り出す人をいかに育てるか。その答えを持つ企業が「進化し続ける組織」へと成長していくのです。

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この記事の著者

岸 和良(キシ カズヨシ)

住友生命保険相互会社  エグゼクティブ・フェロー  デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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