サイバーセキュリティの延長線上にはない「偽情報」問題
偽情報がもたらす問題に企業経営者が対処する場合、注意事項が1つある。アロン氏は「この問題を『CISOが管理するサイバーセキュリティの延長線上にある』と考えるべきではない。法務、リスクマネジメント、マーケティング、そしてCISOとCIOが協力する、部門横断的な委員会組織を立ち上げて組織全体で対処するべき」と提言した。さらに目指すべき姿として、TrustOps(一企業として)とTrustNet(社会の一員として)というビジョンを紹介した。
出典:Gartner(2025年10月) [画像クリックで拡大]
TrustOpsとは、企業におけるガバナンスの構築、そして偽情報への対処に必要なあらゆるものの整備を意味する。その構築に向けて、最初の基礎固めとなるのが前述した関係部門から専門知識を持ったメンバーを集め、組織横断の信頼評議会を設置することだ。この評議会では、偽情報に関するあらゆる問題を検討し、ルールの整備やテクノロジーの選定などを行う。
もう1つ、TrustNetは学術/研究機関、業界団体、標準化団体などが集まり、インターネット上に信頼できるアクセス可能な環境を構築するなどの取り組みだ。たとえば、富士通は産学組織9者でコンソーシアムを立ち上げ、偽情報対策プラットフォームの構築を進めている。また、アドビではデジタルコンテンツの信頼性を担保するための仕組みを構築してきた。現在、「C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)」と「CAI(Content Authenticity Initiative)」という、2つの団体を立ち上げることで、フェイク画像対策を進めている。
伝統的メディアの権威が失墜し、ソーシャルメディアの影響力が増大した今、インターネット空間で流通する偽情報への対策は急務となった。また、生成AIの登場でサプライチェーン2.0が構築されてしまった中、企業にはサプライチェーン1.0とあわせて、複雑になったサプライチェーンネットワークの構造を理解し、備えることが求められている。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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