本連載では、ITプロジェクトにおける様々な勘所を、実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは、「システム移行が『著作権侵害』に? ソフトウェア利用許諾の曖昧さが招いた損害賠償請求」です。システム移行において、それまで使っていたソフトウェアのコピーや改変を行うことは珍しくありません。しかし今回の事例では、そのソフトウェアを開発したベンダーが「利用許諾はユーザー側に与えたが、著作権は譲渡していない」として裁判を起こしました。ユーザー側からすれば、システム移行の際にコピーや改変を行うことは半ば当たり前ですし、少し理不尽にも思えるかもしれません。しかし、ベンダー側や法律の観点からは、違った見え方や解釈がなされている可能性があります。本稿で解説します。
許諾のないソフトウェアのコピー・改変は利用権の範囲内か?
今回紹介する判決は、システムの利用者側か、開発者側か、あるいは法律の仕事に携わる方かによって、若干異なる感想を生むかもしれません。システム側の人間としては「そうあって欲しい」と思うことが、法律の観点からすると「?」がつくかもしれない。そんな争点でした。
論点をいうと、「開発したソフトウェアを、利用者が複製したり翻案(改変)したりすることはどこまで許されるのか」ということなのですが、やや曖昧な契約条項において、どのように判断されるべきなのか重要な示唆を与えてくれる判決でした。まずは事件の概要からご覧いただきたいと思います。
知的財産高等裁判所 令和元年6月6日判決
総合食品卸売業であるユーザー企業はソフトウェア開発ベンダーに対して冷蔵庫管理システムなどの基幹システムの開発を依頼し、ベンダーはこれを完成させて納入した。ユーザーはこのシステムのプログラムについて利用許諾は与えていたが著作権は譲渡していなかった。
システムは問題なく業務に使われていたが、ある時サーバーを移行する必要がありプログラムを複製して移し替え、また保守ベンダーの変更といった運用上の必要性からシステムの一部のソースコードを複製し環境に合わせて改変(翻案)した。
しかしこれについてベンダーは、ユーザーの行為は契約で許諾した「自ら使用するために必要な範囲」を逸脱した無断利用であり、著作権(複製権および翻案権)を侵害すると主張し損害賠償とプログラムの使用差止めなどを求める訴訟を提起した。
出典:裁判所ウェブ 事件番号 平成30年(ネ)第10052号
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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