SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

Security Online Day 2026 Spring

2026年3月 オンライン開催予定

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2025年夏号(EnterpriseZine Press 2025 Summer)特集「“老舗”の中小企業がDX推進できたワケ──有識者・実践者から学ぶトップリーダーの覚悟」

紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

システム移行が「著作権侵害」に? ソフトウェア利用許諾の曖昧さが招いた損害賠償請求

著作者の権利か、それとも業務の現実か?

 概要説明の中にもあるとおり、ソフトウェアの著作権はユーザー側に譲渡されていません。著作権法第27条では「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」とある通り、プログラムの複製や翻案は著作者だけが持つ権利とされています。しかし一方で、第47条の三では「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる(但し書き以降省略)」と、プログラム特有の事情も考慮する条文になっています。

 簡単にいえば、著作物を複製したり翻案したりできるのは著作者だけだが、コンピュータのプログラムについては、場合によっては利用者が許諾なしでもコピーや改変ができるということです。今回のユーザーとベンダーの関係も、著作権法上はこのようになります。

 ただし、このシステムに関して両者の間で結ばれた契約条項では、著作権法のこうした考えも踏まえる形で、「(ユーザーが)当該プログラムを『自ら使用するために必要な範囲』で、無償で利用することを許諾する」と定められていました。この「必要な範囲」の解釈が問題となったというわけです。

 開発した企業側からすれば、「たしかにプログラムのインストールや保守作業の都合で、一時的なコピーくらいは行われるだろう」と考え、無償で利用することを許諾したのかもしれません。しかしユーザー側からすれば、システムを利用するうえで、サーバを新しいものに変えることもあるだろうし、移行のためのコピーや各種の設定変更なども十分に考えられます。必要な範囲とはそこまでを含むと考えたのでしょう。

 まったく個人的な感想ですが、開発企業側の話はどちらかというと著作権法の原則に近い考え方のような気がしますし、ユーザー側の言い分は情報システムを利用するうえでの現実を踏まえたものかと思います。

 では、裁判所はこのあたりをどう判断したのでしょうか。判断の部分を見てみましょう。

知的財産高等裁判所 令和元年6月6日判決

 本件ソースコードは、(中略)「成果物」に該当するものである。そして、本件基本契約21条3項(2)は、控訴人が従前からその著作権を有していた「成果物」についても、ユーザーが、自ら使用するために必要な範囲で著作権法に基づく利用を無償でできると規定しているところ、旧サーバから新サーバへの移行に伴って、本件ソースコードを複製したり、新サーバ移行に必要な限度で翻案したりすることは、上記自ら使用するために必要な範囲に該当するものといえる。(中略)旧サーバから新サーバへの移行に伴って本件ソースコードが複製又は翻案されたとしてもそれが複製権又は翻案権の侵害となることはないというべきである。

出典:裁判所ウェブ 事件番号 平成30年(ネ)第10052号

次のページ
現実的に考えて「契約の目的」が果たせるかどうか

この記事は参考になりましたか?


広告を読み込めませんでした

広告を読み込み中...

  • Facebook
  • X
  • note
紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/23253 2025/12/23 08:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング