SAPの構造化データ専用モデル「SAP-RPT-1」登場 LLMが解けないビジネス課題を解決できるか
SAP Buildで「バイブコーディング」も可能に
バイブコーディングに対応した「SAP Build」
ここまでSAPのフライホイール戦略のうち、データとAIの要素に関するアップデートを見てきた。残るはアプリケーションである。ソフトウェア開発が大きく変わろうとする中、SAPはアプリケーション開発でも、自らをよりオープンにする取り組みを進めている。アメリング氏は、「AIエージェントを利用しての『Build with Intent(インテントベースの構築)』の実現」を訴えた。
AIを用いた開発では、コードを一行ずつ記述するのではなく、作りたい成果物(インテント)をAIに伝えることでコードそのものだけでなく、ロジックやUIも生成する開発方法へとシフトが進んでいる。このトレンドに追随するべく、SAP Buildに組み込まれた「Joule for Developers」では、バイブコーディングが利用できるようになった。Joule for Developersを利用すると開発者は数回のクリックでコードに移行し、その品質を確認できる。しかも、生成するコードは、SAP CAP(Cloud Application Programming Model)に代表されるSAPツールのコンテキストを維持している。
また、多くの開発者が既にさまざまなAI開発ツールを利用していることを踏まえ、アメリング氏はSAP Buildの拡張性を高める取り組みについても紹介した。まず、SAP Build Extensions for VS Codeを提供し、VS Code上でのSAPアプリケーション機能開発を支援する。そして、ClineやCursor、Windsurfでのコーディングを好む開発者に向けては、ツールの選択だけでSAP Build内で使い慣れた環境で開発ができるようにした。これを実現するために行ったのが、CAPなどのMCP対応である。
よりスムーズな開発現場への導入を支援するため、2026年に向けてOpen VSX RegistryにBTP Extension Packを提供する計画も進行中だ。これが実現すれば、エディターを直接プラグインするだけで、コンテキストアウェア開発の手法を用いてのコード生成が可能になる。アメリング氏は、「BTP上でのコード補完、リファクタリング、テスト生成、AIエージェント構築がよりスマートかつ高速になる。また、セキュリティ確保とコンプライアンス対応を目的とした、独自のモデルへの接続も可能になる」と語った。
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さらに、ABAPでもCAPなどと同様の開発者体験を提供するため、2026年度第2四半期に向けて、SAP Build VS Code Extension Packagesの提供開始に向けた準備を進めている。実現すれば、VS CodeでのABAP Cloudの拡張開発が可能になる。また、ABAP Cloudでも将来のエージェンティックAI構築に備えられるよう、SAP BuildにAIベースのコード生成機能を統合。ファインチューニング済みの「SAP-ABAP-1」の公開も控えている。このモデルはABAPコードでトレーニングされており、ABAP AIユースケースの構築に特化したものだ。SAP導入企業とパートナーは、最新のABAPコードでよりスマートにより速くカスタムAIユースケースを開発できるようになるだろう。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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