三井化学とIndeedが壊した「AI活用の壁」──“20年来のアドオン地獄”と“2年待ち”を打破
「岩盤層」を突き崩し、アドオンを2,000本から7本に縮小
AI活用を妨ぐ20年来の“アドオン地獄” 2,000→7に激減させた秘策
三井化学においても、AI活用の基盤となるシステム刷新は避けて通れない課題だった。特に抱えていたのが、20年前に構築したSAPの基幹システムにおける「過剰なカスタマイズ」の問題だ。当時、現場の業務プロセスに合わせてパッケージソフトをカスタマイズしていったことで、約2,000本ものアドオン(追加機能)が開発される結果となった。これがシステムの肥大化とブラックボックス化を招き、DXの足かせとなっていたのだ。
最新のシステム刷新で三瓶氏が掲げたのが「クリーン・コア」という鉄の掟。標準機能に業務を合わせ、余計なカスタマイズを一切行わない。
しかし、現場からは「今のやり方を変えたら仕事が回らない」「工場が止まる」といった猛烈な反発が予想された。そこで三瓶氏が実行したのが、「プロジェクト憲章」を用いた施策だという。
「社長に対して『クリーン・コアポリシーを遵守する』と宣言するプロジェクト憲章を作成しました。そして、ここが肝なのですが、この憲章に対し、すべての部長職にサインアップしてもらったのです」(三瓶氏)
日本企業において、トップの指示は現場の部長・課長クラスで止まり、骨抜きにされることが少なくない。三瓶氏はこれを「岩盤層」と表現する。全部長職に署名を求めるという異例のプロセスを経ることで、現場の退路を断ち、変革へのコミットメントを引き出したのだ。結果として、かつて2,000本あったアドオンはわずか7本にまで激減したという。
“帰りは空荷”をなくす:業界横断×AIで「物流2024年問題」を解消へ
整備されたデータ基盤とAIは、一企業の枠を超えた社会課題の解決にも活用されている。その象徴が「物流2024年問題」への挑戦だ。
化学業界ではこれまで、三井化学は三井系の物流会社、三菱ケミカルは三菱系の物流会社というように、グループごとに別々の輸送網を使うのが常識だった。特に非効率だったのが「片荷」の問題。行きは満載のトラックが、帰りは空で戻ってくる。すぐ近くに他社の荷物があっても積むことができない。
こうした非効率を解消するため、化学業界では競合の垣根を越えた「化学品ワーキンググループ」が立ち上がった。三井化学は事務局として、共同物流プラットフォームの構築を推進している。
「千葉の工場から大阪へ輸送する場合、これまでは一人のドライバーが長時間運転していました。しかし、中間地点の静岡・清水で東西のドライバーがトラックごと交換すれば、双方が日帰りで帰れます。これを実現するには、最適なルートや積載の組み合わせを瞬時に計算する『AIマッチング』技術が不可欠でした」(三瓶氏)
2024年度の実証実験の成果は劇的だ。トラックの積載率は約20ポイント向上し89%に達し、温室効果ガス排出量を28%削減、ドライバーの労働時間も17%削減することに成功したという。データとAIの力が、長年続いた「競合の壁」を溶かし、持続可能な物流網を再構築しつつある。
この記事は参考になりましたか?
- EnterpriseZine Press連載記事一覧
-
- 脱モノリシック構造・脱サイロ化へ!SMBC日興証券が挑むグループ共通「API基盤」構築
- 三井化学とIndeedが壊した「AI活用の壁」──“20年来のアドオン地獄”と“2年待ち”...
- なぜシステムは使われないのか?効率化がDXを阻む逆説──サイロ化の罠とセカンドペンギンを増...
- この記事の著者
-
加藤 智朗(カトウ トモロウ)
Forbes JAPAN編集部を経て、フリーの編集・ライター。経済誌・経済メディアで編集、企画、制作管理、デスク、執筆などを担当。関心領域はスタートアップや海外動向をはじめ、ビジネス全般。ポートフォリオ(制作実績など)
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
