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IBMが「TechXchange」で示したハイブリッドクラウド&AI戦略──Anthropic連携と4層テクノロジー基盤

IBM TechXchange 2025/TechXchange Summit JAPAN 2025 レポート

 2025年10月に米国オーランドで開催された「IBM TechXchange 2025」と、12月に東京で開催された「TechXchange Summit JAPAN 2025」では、IBMが企業向けAI基盤をどう組み立て、どう“現場実装”に落とし込むかが語られた。本稿は、両イベントで示された新技術と国内開催メンバーへのインタビュー内容も踏まえて紹介する。

Anthropic連携で生まれた「Project Bob」とは

 生成AIやAIエージェントの活用が広がる中、米国のビッグテックやハイパースケーラー各社はGPU投資やデータセンター拡張を進めている。一方、IBMのAI戦略は、計算資源の拡充ではなく、ハイブリッドなクラウド環境や既存システムとAIとの連携による基盤構築に注力していると見られる。watsonxを中核とした多層構造のAIクラウド基盤を、次世代のインフラと位置付け、トランザクション処理、ハイブリッドクラウド、データ、オートメーションを組み合わせる構成だ。

 その文脈で、オーランドで開催された「IBM TechXchange 2025」で発表されたのが、Anthropic社のLLM「Claude」とIBMの企業向け開発基盤を統合したAIエージェント主導開発ツール「Project Bob」である。Bobはリポジトリ全体や仕様書を理解し、エンジニアとの対話を通じて要件を整理する。要件定義書、API設計書、アーキテクチャ設計書などのドキュメントを自動生成し、その後のコード生成、テスト、コードレビューまでを一気通貫で支援するとされる。

 米国での発表を受け、11月に日本で開催された報告会では、日本IBM テクノロジー事業本部の菱沼章太朗氏と張重陽氏、長田栞氏が詳細を説明した。菱沼氏、張氏は「要件整理からコードレビューまでをAIエージェントが支援することで、開発者がより創造的な仕事に集中できる」と述べる。IBM社内では既に6,000人超の開発者が利用し、平均45%以上の生産性向上が確認されているという(指標の定義や対象タスクなどの詳細は本稿では扱わない)。

提供:日本IBM [画像クリックで拡大]

 開発支援ツールは、単点の自動化(コード生成など)だけでは現場の摩擦が残りやすい。Project Bobの狙いは、要件整理や設計、レビューなど上流・下流を含めて工程をつなぎ、対話で手戻りを減らすことにある。

 企業でAIエージェントを本格活用しようとすると、精度だけでなく例外処理への対応、セキュリティ、ガバナンス、既存システム連携、運用まで含めた統制設計が壁になりやすい。PoCで手応えを得ても、本番で回す段階で「何を、どのルールで、どこまで自律させるか」が曖昧なままだと、品質と速度のバランスが崩れやすい。

 Project Bobは、こうした企業導入の論点を後追いで埋めるのではなく、業務要件やルール、設計計画の段階から織り込むことを狙う。MCPサーバーを活用したエンタープライズ向けAIエージェントの設計ガイドの考え方も踏まえ、リポジトリや仕様書の理解に加えて、要件整理から設計・実装へつなぐ過程でIBMの知見やノウハウを反映しやすい点が、汎用的なAIエージェントツールとの違いになる。

Groq連携:推論ボトルネックをLPUで緩和し、マルチエージェントを回す

 もう1つの重要な技術の発表がGroqとの提携だ。Groqは、LLM推論専用の「Language Processing Unit(LPU)」を開発する米国のスタートアップ企業である(なお、旧Twitter「X」のAI「Grok」とは別の企業・技術)。今回の発表では、このGroq社のLPUをIBMのエージェントプラットフォーム「watsonx Orchestrate」に組み込むアップデートが発表された。

提供:日本IBM [画像クリックで拡大]

 マルチエージェント環境では、ユーザー入力ごとに「どのエージェント・ツールを呼び出すか」をLLMが何度も推論するため、推論速度が全体のボトルネックになりやすい。LPUを採用することで、Llama 3.1 70Bモデル利用時にはGPUと比べて最大約5倍の推論速度を得られるという。推論回数が増える設計ほど、応答時間の悪化を抑える効果が期待される。

 watsonx Orchestrateを担当する長田氏は「エージェントが増えれば増えるほど推論箇所が増え、そこでLPUの高速性が効いてくる」と述べた。

 加えてOrchestrateは、外部ベンダーエージェントや各種SaaSとつながるコネクタ群、MCP/A2A対応によるエージェント間連携、Langflow統合によるローコード設計、watsonx Governanceとの連携によるエージェントの評価・モニタリング機能を強化している。IBMはOrchestrateを企業向けのエージェント統合基盤として位置付ける。

 エージェントが増えると便利になる一方、推論箇所も増え、遅延が体感品質を損ねやすい。推論速度の改善は、単に速さの話ではなく「どれだけ細かく分業したエージェント設計を許容できるか」という設計自由度にも影響する。

次のページ
企業ITを“変化に強く”する4層のテクノロジー基盤

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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