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「セレンディ」で変革をめざす三菱電機、「匠Method」と「アジャイル」で推進

三菱電機DXイノベーションセンター×萩本順三氏インタビュー

鉄道向けサービスに見る「価値起点」の威力

 匠Methodが真価を発揮したのが、鉄道向けデータ分析サービスの開発だ。三菱電機の鉄道、電力、データ分析の担当者と鉄道会社の担当者でチームを作り、回生電力の有効活用という課題に取り組んだ。回生電力は電車を減速する際に生じる電力エネルギーで、有効活用ができていないことが課題だった。

 プロジェクトを通じて興味深い発見があった。同じ鉄道会社でも、列車の運行管理を担う部門と電力を調達・供給する部門は交流がないことが判明したのだ。ステークホルダーの役割(ロール)は約150種類に上った。

 従来のウォーターフォール型開発では、こうした複雑なステークホルダー関係を整理することすら困難だっただろう。しかし匠Methodを活用することで、「誰にどんな価値を提供するのか」を起点に、社内外の多岐にわたるステークホルダーとの議論を整理し、Serendieを活用した「鉄道向けデータ分析サービス」を開発。2024年7月に提供を開始した。

 ただし、三菱電機は匠Methodだけを使っているわけではない。朝日氏は「柔道と空手の型にはそれぞれ強みがある。ソリューションも同じだ」と語る。デザイン思考、生成AI、匠Methodを融合して活用する方針だ。萩本氏も「三菱電機にはデザイン思考や生成AIを使った手法もある。匠Methodはそれらをつなげるフレームワークの位置付け」と説明する。

 例えば、スクラムチームがアイディエーションワークショップで生成AIやデザイン思考を存分に活用し、多様な視点から生み出した「アイデアの卵」を、匠Methodの"価値を可視化するモデル"に落とし込む。すると、そのアイデアは単なる発想で終わることなく、事業としての価値が明確になり、そのまま事業戦略へと落とすネタに変わる。さらに、戦略は業務設計やIT要求へのモデルへと自然につながり、最終的には具体的な組織活動へと展開される。

 つまり匠Methodは、発想を点で終わらせず、「価値」を起点に戦略・業務・IT・活動までを一気通貫で結び付けるためのフレームワークとして機能している。

毎朝15分のスクラムが変えた意思決定

 匠Methodで「何を作るべきか」が見えても、それを素早く実現できなければ意味がない。Serendieの「アイデアの卵」を本当に事業化につなげていくために、同センターでは「Scrum@Scale」の手法を取り入れている。

 朝日氏をはじめとする幹部メンバーが、毎朝15分の短時間スクラムミーティングを実施。各自が把握している顧客のアイデアや進行中のプロジェクトについて密に情報共有し、その場で評価・判断を行っている。

 「『こういう卵があるのだけど』『それは筋がないな』、あるいは『この案件とあわせると面白いのでは』など、すぐに方向性を決められるのです」とDXイノベーションセンター戦略企画部主任の伊勢山諒氏は語る。

 従来の大企業では、現場の活動は日次でも、意思決定層は週次・月次、あるいは半年に一度といったタイムラグが常だった。しかしここでは、トップ層も含めて日々回転する。それが、Serendieの圧倒的なスピードを支えている。

 従来型の「ウォーターフォール」的な開発について、朝日氏はこう振り返る。「営業が要件を出して設計部に渡し、設計部は『これを満たすには』と考えて図面を描き、さらに工作部に渡すと『なんて難しい設計だ』となる。各部門が保険をかけて慎重になりすぎ、結局は無難で特徴のない製品になってしまう」

 その反省から、Serendieでは分野横断の専門家が短いサイクルでアイデアを回し、素早く検証・改善する体制が構築された。

20年かけて育んだアジャイル文化が花開く

 こうした文化の根底には、20年以上にわたりアジャイル開発に取り組んできた細谷氏の存在がある。2002年頃から始まった関西XPコミュニティやXP祭りなどの活動で、細谷氏は「どうすれば皆がもっと幸せにソフトウェア開発ができるのか?」という率直な問いを軸に、仲間と共にアジャイルの実践を重ねてきた。

 その成果は、いま横浜エリアで一気に花開いている。

 「ここ1年は、顔も知らない社員たちが"PBI"や"ユーザーストーリー"を議論している。以前は、三菱電機内のアジャイル実践者は全員顔見知りだったのに、今やまったく知らない人同士が自然にアジャイル開発を当たり前のように進めている」と細谷氏。組織文化のキャズム(普及の壁)を越えた瞬間を実感しているという。

 ここで重要なのは、匠Methodとアジャイルが対立するものではなく、相互補完的な関係にあることだ。匠Methodが「ステークホルダーにどんな価値を届けるために何を作るべきか」という価値の方向性を示し、アジャイルが「それをどう作るか」という実現プロセスを支える。この両輪が揃ったことで、Serendieは加速した。

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「光速Serendie作戦」が生んだ奇跡

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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