設計仕様とコードを分離、整合性を維持した開発が可能に
Kiroの強みは、単機能のものから、ユーザー数が多い複雑なものまで対応できる点にある。AWSが採用したAI駆動開発のアプローチは、「仕様駆動(スペックドリブン)開発」と呼ばれる。
ソフトウェアの開発プロセスでは、要件定義の工程で必ず仕様書を作る。そして、ドキュメントの中の仕様をもとにコードを記述し、テストを行い、バグを発見したらその都度コードを修正する。テストの結果、コード品質に問題ないと判断できれば、本番環境にデプロイする。そしてエンドユーザーが利用している間も、必要に応じて改修を行いながら運用する。
Kiroは、この一連のライフサイクル全体をサポートするが、コードを書くだけではなく、仕様書も書けることを大きな強みとしている。通常のプロセスでは、要件定義のフェーズで作成した仕様書をもとにコードを記述するが、コードから逆に仕様書を書き起こすこともできるのである。しかも、仕様書とコードの間の整合性を維持し、コードのバグを修正したら、仕様書にも変更内容が反映される。実際の開発プロセスで仕様とコードの間を行ったり来たりするのと同じ要領であるため、人間とエージェントによる共同開発とも親和性が高い。仕様書とコードの両方を常に最新のバージョンで維持しながら、テスト、デプロイまでサポートしてくれる。
(出典:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社)
KiroがAmazon/AWSの標準開発環境に指定された背景には、自社でAI駆動開発を進めてきた中で得た知見と経験がある。瀧澤氏は、「12月に開催されたAWS re:Invent 2025で、ワーナー・ヴォゲルス(Amazon.com CTO)が説明していた開発の経緯が興味深かった」と述べる。そこでは1つ目に、バイブコーディングの限界が見えてきたことが挙げられた。エンジニアが満足できる品質のコードを得るためには、AIとのラリーを何度も繰り返さなくてはならない。
2つ目は、バイブコーディングに慣れた人ほどプロンプトが長くなる傾向があると判明したことだ。プロンプトは長ければ長いほど、“仕様”に近づく。ならば、個人のプロンプトエンジニアリングに依存するのではなく、仕様とコードを分離するほうが、成果物共有の観点からも望ましい。自然言語での指示内容の曖昧さや揺らぎを抑えることもできる。
そして3つ目は、試行錯誤を繰り返した結果、仕様駆動開発が最も開発生産性に貢献するとわかったからだ。ちょうど社内で多くのプロジェクトが進行中だったこともあり、そこで実際に検証したところ、開発期間が50%短縮できると判明したという。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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