香川県坂出市(人口約4万7000人、マイナンバーカード交付率80.7%)は、瀬戸大橋の大部分が市域にかかる自治体である。この坂出市が2025年11月に市公式ホームページをリニューアルし、窓口利用者数を前年比最大45%減らすという成果を上げた。仕掛け人は、CIO補佐官を務める畔上文昭氏だ。全国の自治体が「書かない窓口」など物理的な窓口改革に取り組む一方、畔上氏はホームページそのものを「窓口」と位置付け、オンラインとオフラインを融合する「自治体OMO(Online Merges with Offline)」という考え方でフロントヤード改革を進めてきた。なぜホームページを窓口と捉えたのか、そしてその発想はどのような設計に落とし込まれたのか。畔上氏に聞いた。
来庁者の6割は証明書目的、ホームページを「窓口」と捉えた理由
──全国の自治体が「フロントヤード改革」に取り組んでいます。坂出市のアプローチには、どのような特徴があるのでしょうか。
畔上 総務省がここ2年、自治体DXの重点施策の筆頭に掲げているのが、住民接点の見直しを指す「フロントヤード改革」です。ただ、多くの自治体が取り組んでいるのは「書かない窓口」(来庁者が申請書を手書きすることなく、手続きができる窓口)のような、庁舎に来た住民の利便性を高める施策にとどまっています。坂出市は、ホームページも窓口の一つだと捉え、そこから改革に着手しました。
──なぜ、庁舎の窓口ではなくホームページに着目したのでしょうか。
畔上 物理的な窓口を便利にするほど、対応する職員の負担は増えます。地方は人口が減っていく分、人口比率に応じて職員数も減らさざるを得ません。住民のための利便性向上を職員の努力だけで支え続けるのは、いずれ立ち行かなくなります。一方で、複数の自治体の調査から、来庁者の約6割は住民票や戸籍などの証明書を取りに来ていることが分かっていました。この6割は、コンビニ交付や電子申請で対応できる手続きです。だとすれば、住民がまず訪れるべきなのは庁舎ではなく、ホームページだと考えました。
──一般的な自治体のホームページは、広報媒体として運用される傾向にありますね。
畔上 自治体のホームページは多くの場合、広報課が所管しているため、観光や移住促進などのPR情報を中心とした「広報媒体」としてしか位置付けられていません。システム担当や窓口担当が構成を変えたいと考えても、所管が違うために手を出せないのが実情です。
坂出市がホームページを窓口として作り替えられたのは、私のような立場の人間がたまたまいたからだと思います。ホームページと庁舎の窓口を融合させる、という発想自体が広報課だけの視点では生まれにくいのです。実際、坂出市の窓口DX推進の計画図でも、「窓口」と「ホームページ」を同じ自治体OMOという枠組みの中に並べて描いており、両者を別々の担当が個別に改善するのではなく、一体として設計する前提を最初から置いています。
観光写真を外し「証明書」を最上段に――トップページの設計思想
──実際のリニューアルでは、トップページをどのように作り替えたのでしょうか。
畔上 来庁目的の多い手続きを優先し、庁舎の窓口をイメージしてアイコンを配置しました。坂出市の庁舎は入り口を入るとすぐに証明書関連の窓口があるため、トップページの一番目立つ位置に「戸籍・住民票・印鑑」のアイコンを置いています。そのアイコンをクリックすると、まず案内されるのは電子申請ではなくコンビニ交付です。コンビニのほうが窓口より100円安く、住民にとっても手間がかかりません。次に電子申請、最後に窓口という順番で選択肢を示しています。
──電子申請へのアクセス導線についても、こだわりがあったそうですね。
畔上 トップページのメニューから2クリックでマイナポータルの申請画面にたどり着けるようにしました。電子申請を用意している自治体は多いのですが、同意事項の説明文が長かったり、申請ページにたどり着くまでに何度もクリックが必要だったりして、結局使われないケースが目立ちます。坂出市はこの導線の短さが全国最短だと考えています。加えて、住民票の写しと戸籍関連の証明書を一度の申請でまとめて取得できるようにしたのも坂出市だけの取り組みです。
──トップページから、地域の写真や観光情報を大きく扱う演出を外したと伺いました。
畔上 全国の自治体ホームページの多くは、名所の写真を大きく掲げています。しかし地元の住民からすれば、見慣れた景色を見せられても意味がありません。加えて、今は検索エンジンを使わずにAIで情報を調べる人が増えています。20代の半数以上がすでに検索エンジンを使わなくなっているというデータもあり、観光情報を求める人が自治体のホームページに来ることはほとんどありません。坂出市を訪れる観光客が最も集まるのは、庁舎から7キロ離れた民間のうどん店です。
自治体のホームページで発信できるのは、そうした民間の情報ではなく、ハルシネーションのない正確な行政情報だと考え、目立つ場所からは意味の薄い写真を外しました。その代わりに、メニュー全体は手続きエリア、お知らせエリア、坂出市の取り組み紹介エリアの3つに整理し、手続きエリアを最上部に据えています。メニューの中央には、ハイハイする子どものアイコンを動く形で配置しました。庁舎1階のフロア中央にあるキッズコーナーと同じ発想で、こどもまんなかという方針をホームページの中でも表現したものです。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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