元陸将 廣惠次郎氏が日本の「サイバー戦」能力強化に向けて期待すること──官民連携の発展を阻む課題
サイバーセキュリティ庁の設立、国産版Mythosの開発、地方のサイバー防衛体制整備など……
“国産版Mythos”は実現可能か?
【質問5】自衛隊のサイバー戦能力強化に向けた最新テクノロジーの活用について、直近の課題や個人的な関心はあるか。
廣惠氏:やはりAI活用はマストだろう。攻撃側は当然のようにAIを使い始めており、防御側でもAI利活用が徐々に広がってきている。AIを用いた攻撃・防御をどう組み立てていくかは、国にとっても民間企業にとっても“緊急案件”だと言ってよい。特に、Mythosに端を発するフロンティアAIの進化は、サイバー戦のレベルや発展速度を数段加速させてしまった。
ただ、エンジニアからすれば、これまでも自社システムやプロダクトの脆弱性探しにAIを用いる「Mythosのようなこと」はやっていたようだ。そのため、フロンティアAIの進化を過度に恐れるのではなく、政府が旗を振って日本の英知を結集し、冷静に対応すれば「日本版Mythos」なるものを作れると個人的には確信している。日本にも優秀なエンジニアはたくさんいる。
【質問6】国産のMythosはやはり必要だと考えるか。また、旗振り役は政府が担うべきか。
廣惠氏:必要だと思う。現在は米国に利用権を握られている状況だが、それに一喜一憂するのではなく、日本国内の英知を結集すれば、同様のものは十分に作れるだろう。旗振り役は国が担うべき。国家サイバー統括室がその役割を十分に認識しているため、今後期待している。また、民間側にも優秀な技術者はたくさんいるため、呼びかけて上手く連携できる機会を探っていきたい。
【質問7】日本にも世界で戦える優秀なセキュリティ人材がいることは知っているが、その絶対数は他国に比べて不足している。また、米国のように軍から人材が輩出されるような構造もない。自衛隊で人材育成に携わっていた廣惠氏から見て、このギャップを埋めるためには何が必要か。
廣惠氏:日本のセキュリティ人材は、個人の能力は極めて高い。世界的なハッキングコンテストでも、日本人が優勝している実績がある。しかし、それが結集できておらず、孤立した“お座敷”のようになってしまっている側面がある。
だからこそ官民連携が重要であり、国が旗振り役になって彼ら彼女らの知見を結集させなければならない。個人の能力を束ねて組織的な力を発揮できれば、ギャップの解消に近づくだろう。
サイバー防衛隊の指揮官は、米軍の「大将」と対等に渡り合える階級にすべき
【質問8】サイバー防衛の分野は、「誰が最終的なグランドデザインを描くのか」という点で苦しんできた歴史がある。そんな中で、国家サイバー統括室が設立されたり、国としてサイバー防衛能力の具体的な戦略を描いたりと、転換点となる動きが起こっている。これらは日本のサイバー行政の歴史において画期的なものだと捉えてよいのか。
廣惠氏:私自身は非常に画期的であると評価している。数十年前は「サイバー」という言葉すらなく、「IT」や「情報通信」と呼ばれていたが、ようやく「サイバーセキュリティ」という言葉やその重要性が世間から認知された。国家サイバー統括室が組織され、能動的サイバー防御の関連法案が通り、「欧米と同等以上」の目標を掲げて実際に政策を打ち出していることは、日本のこれまでの歴史を鑑みれば非常に画期的だと言ってよいだろう。
しかし、まだ十分ではない。先ほど申し上げたとおり、個人的には国家サイバー統括室の「サイバーセキュリティ庁」への格上げを望んでいる。また、防衛省自衛隊におけるサイバー防衛隊の指揮官の階級が、ようやく「一佐」から「将補」へと格上げされた。だが、日米で対等に渡り合うためには、米軍のサイバー指揮官が「大将」であることを考慮して、「将」に格上げすべきだと考えている。本当の意味でサイバーセキュリティ対策立国となるためには、まだまだ政府全体での改革と努力が必要だ。
この記事は参考になりましたか?
- Security Online Press連載記事一覧
-
- 元陸将 廣惠次郎氏が日本の「サイバー戦」能力強化に向けて期待すること──官民連携の発展を阻...
- AI時代の神経系「ネットワーク」、それを守る「セキュリティ」──2つの融合が企業生存の必須...
- フロンティアAIで攻撃が高度化/国家間のサイバー戦もAIで激化 企業が構築すべき「動的防御...
- この記事の著者
-
名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内・海外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
