アドオンを800本から50本に削減、工夫を凝らしながらシステム運用を継続中
とはいえ、クリーンコアとFit to Standardの徹底は容易なことではない。プロジェクト開始直後は、経営も現場も実現したいビジョンを共有し、一つにまとまっていた。ギクシャクしはじめたのは、従来アドオンで実現していた処理の一部が、標準機能では対応できないことが明らかになってからだ。日本企業特有の帳票文化は、どうしてもアドオンを増やしがちである。日本郵船の場合も、「この帳票ではここをチェックしないといけない」「この帳票とあの帳票は必ずクロスチェックをしなければいけない」など、長年にわたり担当間で引き継がれてきた慣習やノウハウが部門内に蓄積されている。特に、経理部門が扱う帳票類の数は膨大だ。
これを変えるためには、アドオンを減らさざるをえない。旧システムでは、約800本のアドオンを開発していたという。それを同社は、SAP S/4HANA Cloudへの移行で、最終的に約50本まで減らすことに成功した。旧システムにおけるアドオンのうち、帳票系の数は約200本にのぼった。もちろん、それぞれのアドオンに存在する理由があったわけだが、システム全体で見れば「変更しにくい、理解しにくい、改善しにくい」構造になっていたと河野氏は振り返る。
上記以外では、財務系のモジュール(TRM、CM、IHB)に関連するアドオンが多かったと、同社で経営企画の統轄に携わる田添順也氏は話す。日本郵船では、ECC時代から会計系のモジュール(FI/CO)に加えて財務系のモジュールを利用していた。
パブリッククラウドにおいて、FI/COに加えてTRM、CM、IHBの財務系3モジュールを組み合わせて導入する事例は、国内外でもまだ多くない。田添氏によれば、これらの財務系モジュールの標準機能と日本郵船の業務要件との間には大きなギャップがあった。従来はアドオンで補完していた処理についても、クリーンコアとFit to Standardの方針を維持するため、同じように個別開発で補うのではなく、別の対応方法を検討する必要があったという。そこで、帳票系のギャップはBIツールの利用で対応し、財務系モジュールのギャップについては、SAP側と協議を続けながら、今後の標準機能の拡張を待つことにした。
標準機能が拡張されるまでの間は、各業務部門でワークアラウンド(暫定対応)を講じることにした。現在は、標準側の機能対応範囲が少しずつ広がっていきているところだという。業務側の変革と、SAP側の機能進化──双方が継続的に進められて、ようやく思い描いていた成果を完全に実現できるというわけだ。新システムが稼働して1年以上経った現在でも、同社はクリーンコアとFit to Standardを曲げずに運用を続けている。
この記事は参考になりましたか?
- 冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス連載記事一覧
-
- 日本郵船が「あえて不自由な」システムを選んだ、SAP移行の舞台裏──苦労の先にあった思いが...
- 「ただの法令対応」では投資家に届かない──2027年から本格化するSSBJ基準を戦略に変え...
- 未曾有のトレンドが押し寄せる今、ガートナーの専門家が重圧に悩むセキュリティリーダーへ送るア...
- この記事の著者
-
冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
