クラウドへの期待と段階的導入ステップ
現在の企業におけるICT利活用は、大きく以下の観点で展開していると考えている。
- 現システムの最適化によるコストダウン
- SaaSや高生産の開発などへの取り組みによるフロント業務のスピード化
- ネットワーク社会インフラの進展による新しいサービスの活用
この展開で、重要なキーワードとなるのがクラウドである。実際、企業のクラウドへの関心の高まりは、富士通に寄せられる商談にも現れている。クラウド商談の件数は2009年度上期に比べて下期は約3倍になった。要望別に商談の内容を分類してみると年間を通じて「サーバー統合によるコスト削減」がおよそ半数を占めている。また、下期には「会社・グループ会社への共通サービス化による全社的な効率化」、「スピード向上やガバナンスの強化」といった商談が増えた。
つまり、仮想化によるサーバー統合からシステムの全体最適化へと移ってきている。クラウドへの関心は、方向性の検討から具体的な企画のフェーズに移りつつある。そして、それは単なる要素技術への注目というよりも、システム戦略全体の視点に基づいていると見ることができる。
現在、多くの企業では、業務システムごとにサーバー、OS、ミドルウェアなどシステム環境が構築されている。そして、それらのほとんどは、運用が業務システムごとに行われている、いわば「サイロ型のシステム」となっているのが実情だ。そこで企業が所有するサーバーを一カ所に集約して仮想化し、運用とICTリソース利用を効率化することが求められているわけだが、そこでは新たな問題も発生する。
サーバーが各部門に分散している時には、その運用管理は現場の開発担当者などが本来の業務のかたわら、ボランティア的に行っていた。ところがセンターに集約されると、その運用管理作業も「業務」として集まってしまう。その結果、せっかく物理サーバーの台数を減らしてコストを下げたのに、運用管理のための人件費が上がることになりかねない。そこで仮想化に加え、標準化と自動化というステップが必須となる。
この3 つのステップは、以下のように、企業のクラウド、中でも自社で運用するプライベート・クラウドへの期待、コスト削減とビジネスのスピードアップを実現するキーとなっている。
コスト削減
- マルチベンダーのプラットフォームを集約、仮想化して稼働率を上げたい
- システムの運用を自動化し運用管理の負荷を軽減したい
- 開発・実行環境を型決め(標準化)して開発・メンテナンス負荷を軽減したい
ビジネスのスピードアップ
- 本社標準の業務サービスの利用を子会社にも展開し、グループ全体でのビジネスのスピードアップを図りたい
- 自動化によりアプリケーション開発環境やテスト環境を必要なときにすぐに利用したい
- 連携先ごとにプログラム開発を行うことなく、決められた方法で簡単にパブリック・クラウドと連携し業務開発を早めたい
企業が所有するサーバーを一カ所に集約して仮想化し、その上で業務の標準化を行い、さらに業務の構築作業や運用作業を自動化していく。また、運用をスムーズに行うために業務サービスの見える化を進め、必要に応じてパブリック・クラウドのスケールメリットや拡張性も利用する。富士通の考えている段階的な最適化であり、目指すハイブリッド・クラウドの姿になる。(次ページへ続く)