組織的なアジャイル導入には旗振り役が必要不可欠
これまで現場が主導することの多かったアジャイル開発ですが、その効果が知られるようになってからは戦略的に導入を検討する企業も増えてきました。ただし、自然発生的ではなくトップダウンで導入する場合には、導入を牽引してくれるようなモチベーションの高いメンバーがいるとは限りません。よって、旗振り役となる人を意識的に作り出す必要があります。本記事では、アジャイル推進チームと呼びます。
アジャイル推進チームは、経営層やプロジェクトメンバーにアジャイル開発に関する説明や教育を行います。また、企業制度や人的リソースなどにあわせて開発プロセスを立案することもありますし、実際に開発を担当するプロジェクトに支援や助言を与えることもあります。そこまで大掛かりでなくても、初めてアジャイル開発を導入する組織では、事前にその手法を学び、それを共有する役割がきっと必要でしょう。
推進チームの人選はアジャイル開発の成否に大きく影響する要素ですから、慎重に行う必要があります。推進メンバーの調達は社内だけでまかなうケースもありますし、社外からコンサルタントを雇うケースもあるでしょう。効果的なアジャイル開発を実施するためには、どのような人選をしたらいいでしょうか? 今回はアジャイル推進チームのメンバーに求められるスキルや適性を見ていきましょう。
アジャイル推進チームに必要な3つのスキル
アジャイル推進チームに必要なスキルは、「アジャイル」「ソフトウェア・エンジニアリング」「マネジメント」の知識、そして経験に集約されます。ここでいうソフトウェア・エンジニアリングとは、アジャイル以前から存在しているソフトウェアの開発・運用・保守に適用するための工学的手法、マネジメントとはプロジェクトや組織の管理に関する知識や経験のことを指します。
おや?と思われた方もいるかもしれません。アジャイルに関する知識や経験は当然のこととして、ソフトウェア・エンジニアリングやマネジメントのスキルがなぜ必要なのでしょうか。従来型の開発手法から脱却するためにアジャイルを導入するはずなのに、なぜ今さらと感じる気持ちは良くわかります。
しかし、プロジェクトを成功に導くために必要な要素のうち、アジャイルがカバーできていない部分がいくつかあるのです。例えば、ソフトウェア・エンジニアリングの教科書に載っているようなプログラミング、設計技法、テスト、要件定義、開発の進め方などの知識はアジャイルでもおさえておくべきでしょう。
マネジメントの知識が必要である理由も同じです。アジャイル開発はプロジェクトで必要な作業のうち「ソフトウェア開発」の部分しかカバーしていません。プロジェクトの「全体」を見て各部門/利害関係者と調整しながら開発を進めるためにはマネジメントのスキルが必要になるのです。
アジャイルの専門家でも3つのスキルの重要性を認識し、すべてを兼ね備えている人はあまり多くありません。必ずしも、全てのメンバーが3つのスキルを身に付けている必要もありません。ただ、推進チームには、「アジャイル派」の人だけではなく、「マネジメント系」の人も必ず入れることをおすすめします。アジャイル推進チーム全体として必要なスキルをカバーできるような構成にしておきましょう。