リーガルテクノロジー業界と法律事務所
訴訟大国アメリカを支える大きな業界がリーガルテクノロジー業界である。
今や米国での民事訴訟や政府機関による企業調査において、リーガルテクノロジーによる支援は必要不可欠であり、リーガルテクノロジーを事業としている企業は全米500社を超えている(出所:Socha Consulting)。
訴訟大国であるアメリカにおいて、リーガルテクノロジー企業は法律事務所との関係が深い。なぜならその多くの業務が法律事務所からの依頼によって実施されるからである。
法律事務所はLitigation Supportと呼ばれているIT専門家を配置してリーガルテクノロジーを利用する体制を整えている。彼らは書類、電子情報などありとあらゆる証拠資料をデータベース化して訴訟を担当している弁護士に提供していく。
しかしながら、実質、彼らの人員と設備では膨大かつ複雑な情報処理を実施することは不可能なため、Litigation Supportの実質業務はリーガルテクノロジー企業が対応することが一般的である。よって、Litigation Supportの主な業務はリーガルテクノロジー企業の選定やマネジメントとなっている。
我が国のディスカバリはだれが担っているのか?
それでは、日本の状況をみてみよう。
わが国の法律事務所には事務所内のITシステムを管理する管理者はいるが、米国の大手法律事務所のような訴訟支援のためのIT専門家は私の知っている限りでは存在しない。
現在では企業に存在する情報はそのほとんどが電子化されており、大量の電子情報を精査しなければならない状況であり、すでに電子メール調査が行われていることは報道もされている周知の事実であり、リーガルテクノロジーの支援なしでは今後の訴訟や調査案件に対応していく事は困難である。わが国の法律事務所にも米国と同等のLitigation Support Teamを持つ必要があるのは明確である。
また、リーガルテクノロジーは訴訟や不祥事対応だけではなく、M&Aにおけるデューデリジェンスにも活用されている。大量の関連データを短期間にデータベース化してオンラインの証拠閲覧システムで複数の人員で資料閲覧を実施することにより短時間で正確な作業を可能にしている。
日本では、ディスカバリ作業そのものを弁護士が行っていると信じている企業も多くいるが、そのようなことは基本的にはありえないことである。仮に企業自身がディスカバリ用のデータを抽出する作業をする場合でも、そのデータをそのまま代理人の弁護士が相手方に提出することはなく、必ず何らかの形でリーガルテクノロジー企業を使用してデータベース化などの加工処理をしている。しかしながら、そのことを認識している日本企業はまだ多くないのが現状である。