グループウェアとソーシャルウェアの違い
グループウェアの進化形である、ソーシャルウェア。その違いを一言でいうなら、グループウェアが組織の各部門、部署を単位としているのに対して、組織の中の個人に焦点を当てた情報ツールであるということだ。さらにいえば、組織の中の個人が部門、部署の垣根を越えて、さまざまな人たちとコラボレーションするために必要な機能を集約させたツールということになる。
これまでのグループウェアにも個人のプロフィールが分かる機能などあったではないか、という意見もあるだろう。決定的な違いは、個人の情報について量、内容の深さともに圧倒的にソーシャルウェアに分があること、そしてなによりも、個人が組織の垣根を越えて他の部門、あるいは他の企業の人たちと自然につながりが持てるようになっている点だ。
たとえば、あなたが未体験のプロジェクトを担当する場合、同種の経験を持つ社員から情報やノウハウを教えてもらうことができたら心強いはずだ。しかし、一般のグループウェアには限界があることも事実だ。例えば、類似プロジェクトの過去の担当者を知ることはできるかもしれないが、探しあてた人物がプロジェクトのキーパーソンだとは限らない。また、必要とするドキュメント情報などが整理されてどこかに保管されているかどうかも分からない。
いずれにせよこれまでのグループウェアでは、情報をたどる場合、属人的な能力に頼らざるを得ず、また知りたいことを正確に調べるにも、時間がかかっていた。「同じ会社でやっていることなのに、どうして1年も過ぎるとその経過が分からなくなってしまうのか」。こうした問題意識は今も多くの企業関係者が抱いているものだ。
日本アイ・ビー・エムのソーシャルウェア・エバンジェリスト 行木陽子氏は次のように語る。
「ソーシャルウェアの場合、もともと個人が業務上作成する資料などは、タグ付けして保管されており、完成までの過程がコメントも含めて記録できます。誰がどのようにその仕事に関わったのかが明確に分かるわけです。また、IBMが提供するソーシャルウェア IBM Lotus Connectionsには、独自に開発した分析エンジンが搭載されていて、知りたい事象→それをよく知る人→その事象について会っておいた方がいい人、といった情報も即座に分かります」
IBM Lotus Connections、そして関連ツールなどを使うことで、組織内の個人が既存の部門、部署の枠を越えてコミュニティを形成することができるようになる。個人の情報には、その人物が関わった仕事情報と、あらゆる形式で作成、保管されているドキュメントが紐づけられており、短い時間で必要な情報を収集し、最適な人物にインタビューすることもできるわけだ。
新しい組織に変化していくために必要なツール
もともとIBMは2000年代はじめから、自社社員が個人ベースでグローバルに結びつき、さまざまなアイデアを共有し、それをタスクとして管理し、新しいビジネスにつなげていくという試みを始めていた。今回のソーシャルウェアへの進化はこうしたこともバックボーンとなっているはずだ。一方で行木氏は次のように付け加える。
「2010年にIBMは『IBM Global Chief Human Resource Officer Study 2010』と題して世界中の有力企業の人事担当責任者に調査を行いました。そこで明らかになった課題を3つにまとめると次のようになります。1つは、想像力を発揮できるリーダーの育成、2つめはスピードと柔軟性を高める戦略的人財配置、3つめはグローバル化の進んだ組織における効果的なコラボレーションの促進です。もちろん、これまで進めてきた企業内での情報共有、コラボレーションの効率化の取り組みもベースになっているわけですが、ここにきて、企業は自社が持つ『ベストプラクティス』、つまり勝ちパターンが通用しない状況に直面することになったわけです。そしてその苦境を打破するためには何をすればいいのか、という課題に対する答えの1つとしてソーシャルウェア活用の提案があると理解していただきたい」
つまり、これまでの戦略、組織構造、システムを変えなくてはならない状況だという認識が多くの企業で広がっているということ、そして、そのためのツールとしてもソーシャルウェアは重要な役割を担うということなのだ。
「かつてマッキンゼーが提唱した7つのSという有名な理論があります。Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度)という企業のハード部分といえる3つのSの一部を変えても、Shared value (共通の価値観・理念)、Style(経営スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)というソフトのSの変革はうまく進まないというものです。組織変革にはハードのSをすべ同時に改革することが不可欠だとすれば、ソーシャルウェアは改革のための起爆剤、あるいは改革をスムーズに進めるための基盤ツールとして役立つはずです」(行木氏)
新しい時代へ組織を正しく導くためのツールとして、ソーシャルウェアは今後日本でも大いに注目されるテクノロジーだといえる。
新しい勝ちパターンの時代へ
「Lotusphere Comes to You 2011」では、Lotus Notes/Dominoの最新活用情報とともに、ソーシャルウェアとしてLotusを活用する際のポイントなどが各セッションで詳しく説明されることになるという。
日本アイ・ビー・エムのソフトウェア事業部 Lotus事業開発 担当課長の臼井 修氏は次のように話す。
「Lotus Connections以外にも、統合コミュニケーション(Unified Communications)ソリューションLotus Sametimeを加えてソーシャルウェアをより効率よく使う方法なども紹介できればと思います。Lotus Sametimeはソーシャルウェアの中で素早くコンタクトをとるためのツールです。離席して戻ってきた相手とすぐに連絡をとれるといったコミュニケーションロス解消に役立ちます。また、ソーシャルウェア上で顧客とコミュニケーションをとるということも重要な戦略になっていくはずです。LotusLiveを使って連携し、ソーシャルウェア上でビジネス連携を図っていくといった使い方もぜひ紹介していきたいですね」
こうしたソリューションは、既存のコミュニケーション基盤をすべて捨て去ってから導入するものではない。既存のメールシステム、ポータルシステムなどはそのままにしておいても追加的に導入し、自社のコミュニケーションレベルを飛躍的に向上させ、組織改革を進める原動力にしていくことが可能なのだ。
組織内の個人があらゆる枠を越えて最大限のパフォーマンスを発揮していく、そして顧客をはじめとする社外の人たちとも自然な形でコラボレーションをしていく、これこそが新しい時代の組織を作り上げる上で必要だったことだ。そして重要なのは、そうした仕組みをセキュアな環境の上で構築することができるという点だ。
「業務においてTwitter、Facebookなどを利活用することは常識になりつつありますが、企業で活用する場合は安全であることが重要。社外の人たちと手を携えられるのも、安全なネットワークだからこそ」(行木氏)
『既存の社会的な障壁を難なく乗り越え、最短時間で最大のビジネスベネフィットを上げる』という新しい勝ちパターン。製品を開発するにも、新しい市場を開拓するにも、強力なビジネスパートナーを見つけるにも、これがすべての基本となる時代がやってきたと言えるだろう。東京国際フォーラム(3/2)と梅田スカイビル(3/8)で開催される「Lotusphere Comes to You 2011」の会場でソーシャルウェアによるビジネス・イノベーションのノウハウが明らかになるだろう。
なお、本ページから事前登録を頂いた方の中から抽選で15名(東京10名・大阪5名)に兼元謙任氏と佐々木俊尚氏による共著『「みんなの知識」をビジネスにする』がプレゼントされる。「集合知」をビジネスに結びつけるためのノウハウを学ぶ一日となりそうだ。